240 引率つきデート①
扉の閉まる音に気づかず、ジェーンは熱くなる頬を隠す。濡れた肩にダグラスの青いシャツをかけてもらう場面を想像して、うっとり目を細めた。
きっと彼はお日様のようにいいにおいがするに違いない。
そんな想像――もとい妄想をくり広げるジェーンの周りでは、いいにおいのするシャボン玉がぽこぽこと創造されている。
再会してからはじめてふたりきりで過ごす一日。デートと思ってくれていたら、かつて恋人同士だった時のような甘いひと時になるかもしれない。
もしかしたら私のこと、思い出してくれるかも。
「ダグはやっぱりかわいい系が好きでしょうか。ねえ、ディ――」
振り返ると、電車待ちの列はきれいさっぱりなくなっていた。
「なんでディノいないんですかあああ!?」
デート当日。
「なんでディノがいるんです!?」
待ち合わせ場所のガーデン正門前にしれっといるディノのせいで、ジェーンは朝から絶叫するはめになった。
「ちょっとした調整ミスだ」
「なんの調整ですか!? ミスというなら今からでも挽回できますまっすぐ帰宅なさってください!」
「いや、俺同伴じゃないと許可が下りなくて」
「引率の先生ですか!?」
「ま、まあジェーン、いいじゃんか。ディノがいると楽しいだろ」
ダグラスになだめられてハッとする。あまり責めてはディノに失礼だ。それによくよく思い返してみると、ダグラスはみんなの分のチケットがないと言っていただけで、ふたりで行くとは話していなかった気がする。
まあ、そんなものですよね……。
話がうま過ぎるとも思っていた。こういうオチがついてくるのは、ある意味納得だ。なにせウソつきで、からかうのが好きなディノのことだ。
「でもせっかく、おしゃれがんばったのに……」
ジェーンは自分の服を見下ろしてこっそりため息をついた。
水色のデニム調生地に、白のノースリーブブラウスを組み合わせたショート丈ワンピースも、ハンドバッグもサンダルも今日のために創ったものだ。全部ファッション雑誌で見たままのデザインだが、あれこれ創って何日も悩んだ。
だけどディノなんかそのへんを散歩しにきたような格好だ。ダグラスは濃紺の上着に細身のパンツを合わせて少し気を遣ってくれているが、ジェーンほど浮かれていたわけではないだろう。
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