239 暴走ジェーン
「ディノー! ディノディノディノ!」
仕事帰り、ガーデン最寄りの路面電車停留所で、よく見知った長身を発見したジェーンは突撃した。「イテッ」とこぼしたディノは振り返るなり顔をしかめたのだが、ガーデンのチケットを誇らしく掲げるジェーンには見えていない。
「見てください、これ! ダグからもらったんです! ふたりで行こうって!」
「……あんたそういうのは言い触らさないほうがいいんじゃないのか」
ディノの呆れた声が脳に到達して数秒後、ジェーンは絶叫した。ダグラスとの約束をものの数時間で破っている! 喜びのあまり失念していた自分が信じられない。
「でも、でも、ディノならいいですよね!? 相談に乗ってもらったんですから。シェアハウスに帰ったらお話できませんものっ。プルメリアには悪いです……!」
「俺にも悪いと思ってくれ」
「そんなこと言わずに……!」
つれないディノに思わずすがりついたら、長身がびくりと震えた。見ると怖い顔で見下ろされている。
怒らせてしまったか。そう思ったが、ディノはため息とともに表情をゆるめた。
「なにを聞いて欲しいんだ」
ジェーンはパッと笑みを咲かせた。ディノはやっぱりやさしい。
「服装です! こういう時なにを着たらいいのかわからないんです。とある恋愛小説を読んだら、男女がふたりで出かけるのはデートと言ってとびきりおしゃれをしていました。でも海獣に飛びつかれてずぶ濡れに……。やっぱり透けない服がいいですか?」
「デートの知識偏り過ぎてるぞ。ガーデンのどこに海獣がいるんだ」
「はあっ、でも! ずぶ濡れになってダグに彼シャツなるものをしてもらうのもいいですね」
「聞いてねえな?」
「え。待ってください。ディノ、今なんて言いましたか」
「話聞いてないって」
「その前です!」
「……デートの知識偏り過ぎてる、か?」
デート。本やドラマでしか見聞きしたことのない言葉だが、その響きだけで高鳴る胸をジェーンは押さえる。
「これはやっぱりデートなのでしょうか」
「いやあんた自分でもさっき言ってたけどな」
「ダグもそのつもりで……? ど、どうしましょう。急に恥ずかしくなってきました……!」
「おーい。電車来たぞ。俺乗ってくからな」
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