237 ダグラスと合わせ稽古④

「穴があったら入りたいとはこのことなんですね……」


 プルメリアとカレンとルークはゲリライベントに出ていたことは、不幸中の幸いだろうか。


「結構よかったけどな、ジェーンのシャルドネ」

「そんな。お世辞はいいですよ」


 やさしいダグラスに苦笑を浮かべつつ、ジェーンは黒水晶の牙を水蒸気に変化させていく。

 本番は魔法演出を消さないでいこうか、とジャスパーはつぶやいていた。ショーが終わったあとも客が楽しめるからだそうだ。

 それならもっと紫を濃く、発光するようにしたほうがきれいでいいかな?


「いや、なんか毅然きぜんとした振る舞いがすごく様になってた」


 スポーツドリンクを差し出しながら言うダグラスに、ジェーンは礼を返す。褒められれば悪い気はしない。それに実際シャルドネの位置に立ってみて、魔法発動の間隔や改善点も見えてきた。やってよかったと思う。

 舞台の成功はもとより、ダグラスに怪我を負わせるわけにはいかない。


「じゃあ一回休憩にしよう」

「私まだできますよ」


 舞台のへりに向かうダグラスにそう言うと、彼は目をまるくして振り向いた。


「そうなのか。アナベラさんなんて、ちょっと衣装とか小道具創っただけで『疲れた』って言ってたぞ」


 女帝の自由奔放っぷりは演劇部でも健在だったらしい。

 しかし今思うと、アナベラは汗を掻いて服が張りついたダグラスもルークも見放題だったということか。クリスを不埒ふらちな目で見ていたことを考えると、追い出すだけでは生温かった。


「水蒸気への物質変化が一番疲れるのに、ジェーンはすごいな。創るのも消すのも早い。ほんと、ジェーンがいなかったらこんな演出はできないよ」

「ダグ、褒め過ぎですよ」


 そう言いつつ、ここ最近の創造魔法の上達ぶりはジェーンも自覚していた。今までの練習や学習の賜でもあるだろうが、なにかき物でも落ちたようだ。

 振り返れば黒水晶はほとんど消えかけている。

 こんなに早く物質変化できる人だったかな?

 自分のことなのに、自分ではないような妙な感覚だ。


「でもまあ、少し休もう。今日も暑いし。熱中症対策にはこまめな休憩が大事だよ」

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