229 悪竜シャルドネ②

「今回、俺はもうひとつ前からやってみたかったことをやるって決めてんだ。ジェーン、お前とならできると思う」


 ちょいちょい、と手招かれてジェーンは首をかしげつつジャスパーの隣に立った。


「俺の動きに合わせて創造してくれ」

「えっ」

「ジュリー女王の窮地をそうやって救ったんだろ。そうだな……黒い結晶がいい。ブワッて突き出るように。ほら」


 ジャスパーは片手をゆっくりと下から上へ振ってみせる。

 男の子を泣きやませるため、ジュリー女王が魔法を使ったように見せた。それと同じことだと理解して、ジェーンは構える。

 ジャスパーの手が振り上げられた瞬間、牙のように鋭く尖った黒い結晶を創造した。


「いいぞ! でもちょっと遅いか? 時間差で同時多発的に創造してみてくれ。徐々に大きく! 鋭く!」


 もう一度ジャスパーが腕を勢いよく振る。ジェーンはその足元から黒い結晶を生み出しながら、次の結晶を頭で描き、次々に黒塔こくとうを築き上げてみせた。

 もっと、もっと、と望まれるままに速く、鋭利に、邪悪に、想像力が研ぎ澄まされていけばいくほど、魔力もジェーンに応える。


「すごい。こんなに速く形成できるなんて……」


 クリスの感嘆も耳に入らず、ジェーンは夢中だった。

 アナベラという抑圧がなくなった反動だろうか。魔法を奮う心が今までよりもずっと軽い。意識しなくても、頭で思い描いただけでそれが形になっている。

 この感覚は、雲の城で起きた事故の修繕をおこなっていた時と同じだ。でもあの時よりも今は疲れすら感じない。


「最高だなジェーン! 次は階段で俺を持ち上げろ!」

「はい!」


 ジェーンはジャスパーの足元に向かって手をくるくると回した。黒い結晶の床板がぼこりと起き上がり、カタカタと段を創りながらジャスパーの体を持ち上げていく。

 ふいに、彼が足を踏み出しても、ジェーンが受けとめる想像をすれば結晶が足を支えた。

 天に向かって枝葉を広げる木々のように、波打ち伸びる結晶の階段がついにジャスパーを照明がぶら下がる天井まで運んだ。ダンス練習していた部員たちも、束の間にできた階段に口をぽっかり開けている。


「俺の想像通り! これならいける! 観客をあっと驚かせてやるぞ!」

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