228 悪竜シャルドネ①

 その時、ジャスパーがぬっと顔を突き出してきた。張りつけた笑みがピキピキと震えている。ジェーンはダグラスとそろって引きつった悲鳴を上げ、何度もうなずいた。

 ため息をついてジャスパーがきびすを返したところで、そんな自分たちがおかしくなり小さく笑い合った。


「えー、どこまで話したか忘れたから頭からいく。今回のハロウィンショーの目玉はずばり、悪役だ。これはガーデン初の試みとなる。ずっと前から出したいとは思ってたけどな」


 そう言いながらジャスパーは〈シャルドネ〉と書かれた文字を囲むように手を回した。


「その悪役がこの〈シャルドネ〉だ。大空の国の悪徳大臣の手下、っつう設定な。彼女は大臣のめいでロジャー王を連れ戻しにきた悪竜。ショーの大筋はこうだ。シャルドネと戦い、なんやかんや退ける。以上!」


 大事なところが省略された説明に聞こえたが、ジェーンの後ろからは感嘆の声が湧く。「部長!」誰かが挙手した。


「悪役はシャルドネだけですか。大地の国の手先は?」


 あ。そっちの質問が先ね?


「出し惜しみした。反応がまったく予想つかないからな。好評だったら来年増やす」


 なかなか打算的な理由ですね。


「他に質問のあるやつー?」


 お行儀よく沈黙を守る時間がしばし流れた。


「じゃあ次に――」

「あ、あの!」


 ジェーンは堪らず手を挙げた。すると部員たちがさわさわと騒めく。「小皇女さんだ」と色めき立ったささやきも聞こえてきた。ラルフが冗談でつけたあだ名は、アナベラの解雇話といっしょにすっかり広まってしまったらしい。

 ジャスパーからも心なしか期待の眼差しで見られて、ジェーンは無闇に緊張させられた。


「シャルドネを具体的にどうやって退けるんですか?」

「あー。だいたいの方向性は決まってるんだが、それはこれから詰めていく。シャルドネ役を見てからと思って。あ、シャルドネ役はオーディションで決めるから。興味あるやつは俺のとこに課題曲の楽譜取りに来いよー」


 そう言ってジャスパーは説明を終わらせ、ダンサーたちをガーデン側と敵側に分けた。そしてダンス指導を振付師に任せて、ジェーンとクリスを舞台へ呼ぶ。

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