226 新舞台担当②

 稽古場の大扉に手をかけて、クリスとうなずき合う。両開きの扉を一気に開け放ったせつな、照明に目がくらんだ。


「来たな。革命の小皇女」


 演劇部部長ジャスパーの声がするほうへ、ジェーンは目を向ける。するとにわかに拍手が沸き起こった。演劇部員たちがずらりと並び、皆一様に満面の笑みでジェーンとクリスを歓迎している。


「やりやがったな整備部!」

「もうオバサンの文句もグチも聞かなくていいんだわ!」

「小皇女バンザイ! クリス最高!」


 わいわいと歓声を上げる部下たちの間を縫って、ジャスパーはジェーンとクリスの前に立った。夏になっていっそう、サイケデリックなシャツと蛍光色のパンツはまぶしい。

 彼がひょいとサングラスを下げた拍子に、黒い数珠イヤリングがそっと揺れた。


「俺の言った通り、古い鎖をぶっ壊してきたな」

「ぶっ壊す、というほどの活躍ではありませんでしたけど。まっすぐ突き進んでみました。鎖が引きちぎれるまで」

「上等。俺が想像する最高におもしろい舞台、いっしょに創ってくれるんだろ?」


 ジェーンはクリスと顔を見合せ、ともにうなずいた。


『はい』

「よし! 今ちょうどハロウィンショーの設定やストーリーを話してたところだ。てきとうに座って聞いててくれ」


 言われてみれば鏡面の前にはホワイトボードが置かれていた。ハロウィンショーと題が記されたそこには、大きな字で〈シャルドネ〉と書かれている。

 女性の名前だろうか?


「ジェーン!」


 ホワイトボードを向いて床に座りはじめる部員たちにならい、後ろのほうで腰を下ろそうとした時だった。小声で鋭く呼ばれて顔を上げる。

 前列にプルメリア、カレン、ダグラス、ルークの姿があった。手招くプルメリアの顔がムッとしかめられていて、ジェーンは苦笑った。

 今回の解雇騒動、結局ディノ以外のルームメイトには詳細を話していない。朝は出勤時間が違うし、風邪をひいていることを盾にしてしまった。

 気が進まず、ずるずると避けてきたが、もう逃げられないらしい。ジェーンは最後の悪あがきで座ろうとしていた場所を指さした。

 四人のルームメイトは見事にそろって首を横に振った。

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