225 新舞台担当①
世間は日毎に今年の最高気温を更新している。源樹イヴは幹をさわやかな水色に染め、葉っぱは瑞々しい緑へと変わった。
整備士の制服も薄手の夏仕様になったが、堅苦しいデザインはそのままだ。
「ハロウィンは一番の書き入れイベント。仮装とガーデンの植物や装飾が写真映えするからな。何ヵ月準備期間があったって、毎年
ババアからの引き継ぎに手間取っちまった、とニコライは悪態をつく。ジェーンはくすくすと笑った。
ニコライの仕事量は明らかに増えている。けれど疲れどころか、少しこけた彼の頬は前より生気に満ちていた。
「そうなんですか。大変ですねえ。でも楽しそうなイベントです」
「あ? なにのんきに言ってんだ。このハロウィンイベントでやる土日限定のショーを、お前に任せるために呼んだんだぞ」
「……はい!?」
「ガーデンの装飾はノーマンに任せた。だからジェーンは演劇部と協力して衣装や小道具、舞台の創造に入ってくれ。前任者が辞めたせいでちょうど穴があいてんだ」
「え。え。演劇部? 衣装?」
「はじめてだから補佐をひとりつけていいぞ。ラルフ、レイジ、クリス。この中からひとり選――」
「クリス! 絶対にクリスです!」
ジェーンが食堂と演劇部のある区画を繋ぐ通路で待っていると、濃紺の髪を揺らす小柄な青年が駆けてきた。
「クリス!」
「ジェーン!」
飛びつくようにして止まったクリスを、ジェーンは笑顔で支える。息を弾ませる彼の手にはしっかりと、スケッチブックが握られていた。
「ジェーン、ありがとう。夢みたいだ、こんな……」
一度つばを飲み込んでクリスは息をつく。スケッチブックを胸にぎゅっと抱き、ぎこちない笑みを浮かべる。目には堪えきれなかった涙がにじんでいた。
「いえ、私が困るんです。クリスがいないと、ハロウィンの衣装なんて思いつきませんから」
「そ、そうだね! まったく、ジェーンこそ僕に感謝してよ?」
目元を拭ったクリスは、少年みたいに無邪気な顔して憎まれ口を叩く。それがおかしくて、ジェーンは笑みを転がしながらクリスに礼を言った。
「では、行きましょうか」
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