221 もう一つのテープレコーダー②
「なにを言ってるんだい、ディノくん?」
「ジェーンはダグラスが好きなんだ。ずっと、ずっと前から」
「それはちょっとした記憶違いだ。彼女は記憶が混濁しているんだよ。前にも言っただろう? でも今の彼女にそれを話してもわかってもらえない。だから正攻法で彼女の気を引こうって決めたよね」
「正攻法、なのか? アナベラを使って弱ったところにつけ込んだり、恩を売ったりするやり方が?」
ロンは微笑みを湛え「もちろんだよ」と大きくうなずく。机を回って、迷いを見せるディノの背中にそっと手を添えた。
「僕らは記憶を失った彼女を言いくるめることもできた。彼女を襲って既成事実を作ることもできた」
「やめてくれ。そんなことはもう、ごめんだ」
「そうだね。争いごとが嫌いなきみのために、僕は一番平和な方法を選んだんだよ。彼女がきみを好きになってくれれば誰も傷つかない。たとえきみの中に少しの罪悪感が残ったとしても、それは彼女がなぐさめてくれるよ」
「違うんだ、ロン。俺はジェーンの思いを尊重したいんだ。彼女の邪魔をしたくない。それに、ダグラスやルーク、せっかくできた友だちを失いたくない」
「それこそ、きみがうまく立ち回ればいいだけのことだよ。いや、退路を断って彼女のほうからきみを求めさせたほうがいいかな? 確かダグラスくんとプルメリアくんは、いい感じなんだよね?」
「待て……!」
腕を掴んできた息子は、なんとも情けない顔をしていた。毎日、毎日、飽きもせず源樹イヴに登っては帰ってきた時も、こんな顔をしていたように思う。
そのくせ、袖を握る意思だけは頑なだ。
「ジェーンを傷つけるやり方はもうやめてくれ」
「なら、きみはどうしたいんだい」
「……この計画を、やめる」
「やめる? きみはもう彼女のことをなんとも思っていないとでも?」
「それは……」
言い淀む息子の本心をロンはよくわかっていた。握り締めてくる手をあやすように叩き、やんわりと外させる。大きく立派に成長した我が子の肩をそっと掴み、昔からちっとも変わらない臆病で愛しい若葉の瞳を覗き込む。
「きみと彼女が結ばれてくれれば、僕も安心できるんだよ。僕に初孫を抱かせておくれ。それが父親としてたったひとつの望みなんだ」
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