215 新しい時代へ③
「別に。あんたがコツコツやってきたことを話しただけだ。俺は大したことしてない」
「いいえ。ディノが話を聞いてくれたから、私の味方になってくれたから、勇気が持てたんです。あなたがいなかったら私、なにもせずガーデンを去っていたかもしれません」
病床にふせっていた自分は、絶望の淵にいた。自暴自棄になって、なにもかもを頭から追いやろうとした。
そこから救い出してくれた褐色の大きな手に、ジェーンは少し緊張しながらも指を絡める。
親愛の微笑みで見上げると、彼もまっすぐにジェーンを見つめていた。持ち上がった手が頬に伸びてくる。ジェーンは彼のぬくもりを想像して静かに待った。
しかし、軽い衝撃を感じたのは頬ではなく頭だった。ディノはジェーンをまるで妹のようにあやし、視線を逸らす。
「あんたまだ風邪治ってないんだろ。同僚から誘われても、まっすぐ帰れよ」
俺は仕事に戻る、と言ってディノはそのまま目を合わせず行ってしまう。園芸部員や清掃部員たちといっしょに出ていく長身に、心は焦りにも似た切なさで締めつけられた。
そんな自分に戸惑う。ディノの意地悪なからかいやウソに困っていたはずなのに、物足りないと感じている。
「私が、なにかしちゃったのかな。でも、前みたいにからかってなんて言うのも変だし……」
「おっしゃあ、ジェーン! 今日は全員で飲みにいくぞ! 強制参加だ!」
ディノが予見した通り、もう酔ってるかのように陽気なラルフが背中に伸しかかってきた。
「嫌ですよ。私風邪ひいてるんですから。あ、ニコライ部長。私今日休みます」
「休め休め。お前も寝ろ、ラルフ。今夜も仕事だろうが」
ラルフは渋ったが、飲み会は次の定休日だと言われてふらふら下がった。酒に酔ったようなテンションと千鳥足は、間違いなく徹夜の影響だ。
ジェーンはラルフの首根っこを掴んで引き受ける。ニコライは今の仕事状況を把握してから帰ると言った。気の進まない昇進だったが、彼はもう部長としての責任と自覚を持っている。
遅れた分を取り戻すべく、クリスとレイジ、ノーマンは慌ただしく仕事に取りかかった。
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