213 新しい時代へ①

『やったあああ!』


 全員から歓声が上がる。ジェーンはクリスと手を取り合って喜び、ラルフとレイジが高らかに指笛を鳴らす。ニコライはノーマンと視線を交わし、どちらからともなく肩を組んだ。

 祝いの声、女帝の圧政から解放された喜ぶ声がやまない中、ロンは再び従業員たちの注目を集めるのに苦労した。


「えー、それでもうひとつのお知らせは、次の新しい部長のことなんだ」


 整備士たちに視線が移る。そわそわと互いの顔を見合わせるジェーンたちの前に、ロンは一歩進み出た。


「ニコライくん、やってくれるかな」


 ラルフがすかさず歓喜の雄叫びを上げた。レイジも「異論ないっス」と興奮した様子で言う。ジェーンもクリスも、そしてノーマンも拍手で新しい部長を歓迎した。

 しかしニコライはメガネをかけ直し、視線を下げた。


「せっかくですが、自分は向いてないと思います。この通り昔の気質が直らず、一度頭にくると荒っぽくなってしまって……」

「なに言ってるんすか! そこがしびれるんですよ!」


 待ったをかけたのはレイジだった。彼はいつになく息を弾ませ背筋をしゃんと伸ばし、まるで少年のような目でニコライを見つめる。


「腹を括って女帝に正面から向かっていったニコライさん、マジでかっこよかったです。俺もあんな風になりたい。そう思える人とはじめて出会えました。だからニコライさんには、部長として指導して欲しいです!」


 レイジはかかとをそろえ、深々と頭を下げた。こんなに熱心な彼を見るのは、新遊具を開発していた時以来だ。サボり癖は直りつつあったものの、アナベラの前では変わらず投げやりなレイジだった。

 いや、彼だけじゃない。女帝の圧力は整備士たちの自由な意思、想像力、言動を奪ってきた。だけどもう縛りつけるものはない。

 長い冬の終わりを告げる春一番が心を吹き抜けていく。わくわくと弾む笑顔でジェーンはニコライに言った。


「ニコライさん、部長やってください。私からもお願いします」

「本来だったら、お前がやるべきなんだがな」

「えっ」

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