212 古くなった備品交換③

 力なく足を掴んできた手を、ジェーンは静かに見下ろした。


「ジェーン、悪かった。私が勘違いしてしまったんだ……。記憶喪失のお前に……そう、戸惑ったんだよ。私は指導者として、力不足だった……」

「みっともねえ。まだそんな言い訳をして、問題をすげ替えるのか」


 ニコライに舌打ちされて怯えた手を、ジェーンはそっと包み込んだ。


「本当に心を入れ替える気がありますか?」

「おいおい、ジェーン」


 ラルフがこぼしたぼやきは、ジェーンの手に飛びついてきたアナベラの歓声に掻き消された。


「ああっ、もちろん……! これからは良い上司に、いやお前の言う通り部長は下りる。一社員としてゼロからがんばるよ……!」

「そうですか。それを聞いて安心しました」


 ジェーンはにっこり笑いかけ、握り締めてくるアナベラの手をやんわりとほどく。そして厚ぼったい彼女の手をやさしくなでた。


「ああジェーン……! お前だけはわかってくれると思っ――」

「では、がんばってください。新しい職場で」


 わざとアナベラの言葉を遮り、ジェーンは手を離した。安堵の涙だったのか。うるんだ茶色の目がこぼれんばかりに見開く。

 支えを失って床に落ちていくアナベラの手を、ジェーンはもう見ていなかった。


「びっくりさせんな!」


 そう言って笑い、手を叩き、両腕を広げて迎えてくれるたくさんの仲間の元へ、クリスといっしょに飛び込んでいく。あたたかい歓声に包まれながら、ジェーンはディノを振り返っていたずらっぽく笑ってみせた。

 彼は少し驚いたような顔をしたが、やがてやわらかく目を細める。園芸部員や清掃部員がそうしているように、手を叩いて祝福してくれた。


「みんな、聞いて。集まってくれたみんなに、改めて聞いて欲しいお知らせがふたつあるんだ」


 放心したアナベラをロッカー室に向かわせたロンが戻ってきて、みんなの注目を引く。

 まずは、と言いながら懐から白い封筒を取り出した。宛名のところに解雇申請書と書いてある。アナベラがしたためたものだ。

 ロンはそれを掲げて持ち、みんなの前でひと思いに裂いた。


「ジェーンくんの解雇申請は取り消し! 彼女にはこれからもガーデンの整備士として働いてもらうよ!」

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