211 古くなった備品交換②

「ま、待ってくださいロン園長! そんなテープレコーダーを信じると言うんですの!? 偽造された可能性だって……!」

「限りなく本人に近い音声とここまでなめらかな発声は、今の技術で創り出せないよ。もちろんきちんと声紋照合にかけてもいい。きみの首を絞めるだけだと思うけどね」


 きっぱりと突き放された瞬間、アナベラは歪んだ唇に歯を突き立て全身のぜい肉が震えるほど両手を固く握り締めた。


「私を、解雇にしたら、父様が黙っていなくてよ……」


 極度の興奮からか、荒くなる吐息といっしょにうなる。


「確かに彼はきみのことをかわいがっているけど、犯罪まではかばいきれないよ。彼はきみと違って、越えてはならない一線を弁えている男だ」

「お、大げさに言ってバカらしい。これくらいのこと――」

「わからないのかい? きみは詐欺罪、横領罪の他に、恐喝、名誉毀損きそん、強制わいせつに及んでいるんだ。すべての容疑で起訴させてもらうよ」

「な……!? ま、待ってください」


 すがりつこうとしたアナベラを、ロンは軽く身をひねってかわした。勢い余って女帝はひざをついたが、なりふり構わず追いすがる。


「申し訳ありません。もう二度としません。だからせめてわいせつ罪だけでも見逃してください……! 夫と息子に合わせる顔がなくなります……!」

「僕に謝るのは違うんじゃないかい」


 アナベラはすぐにクリスの元へ這いずってきた。今や誰もがその姿を冷ややかに見ていることも気づかず、必死に手を合わせ懇願する。


「クリス、クリス……! わかっておくれ。私は本当にお前がかわいかったんだよ……! それで少し、やり過ぎてしまったんだ……! 悪気はなかったんだよ。だから許して欲しい……!」

「誰もきみなんかにかわいがって欲しいなんて思ってないから。キモいんだよ。オ、バ、サ、ン」


 クリスの絶対零度の眼差しは、アナベラを震え上がらせた。どこからともなく「そうだ! そうだ!」と野次が飛ぶ。従業員たちは自然と輪になって女帝を取り囲み、追い詰めるようににじり寄ってきた。

 アナベラはいっそう汗を噴き出し、見開いた目でどんどん迫る壁を見回す。と、視線がジェーンを見て止まった。かと思いきや、地獄の淵の亡者のように這いずってくる。

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