210 古くなった備品交換①

「でも僕たちのために辞める覚悟をしたジェーンを見て、僕も決心がついた。きみのためなら僕は、胸を張ってこの録音を公表できる!」

「クリス……!」


 ワッと口を覆い、ジェーンがクリスを抱き締めようとした時だった。


「黙れ黙れだまれえええ!」


 アナベラが叫び、クリスの手ごと録音機を弾く。その拍子に引っかかれたのか、痛がるクリスをジェーンは胸に引き寄せた。

 小さな機械は床を滑り扉に叩きつけられる。


「そんなものはでっち上げだ! 私を陥れようと創り出したんだろ! よくも……よくも……! お前ら全員クビだ! 父様に言いつけてガーデンごと潰してやる!」

「それは困るなあ、アナベラ部長」


 場違いなほど朗らかな声に、全員の目が扉へ集まった。


「ロン、園長……」


 からからに干上がった声を絞り出し、アナベラがその人物の名前を口にする。ロンはにっこりと笑って、テープレコーダーを拾い上げた。


「話は全部聞かせてもらったよ」


 ジェーンはロンとディノがせつな、視線を交わしたことに気づいた。ディノが従業員たちを連れて事務所にやって来た時、ロンはすでに廊下にいたんだと察する。

 目上にはネコをかぶるアナベラの本性を、隠れて見ていたんだ。


「それでね、僕はアナベラ部長の言うことも一理あると思うんだ」


 ロンは手のひらでテープレコーダーを弄びながら、くつ音をコツコツと鳴らしてゆったりとアナベラに歩み寄っていく。

 意外な言葉にアナベラは呆けた。ジェーンも眉根を寄せ、怪訝に思う。ロンはアナベラの前で立ち止まると、集まった従業員たちを見回して微笑んだ。


「僕も、古く、使い勝手の悪くなった備品は早急に新しい物を補充するべきだと思う。そして、古い物は捨てなくちゃね」


 表情は柔和のままなのに、ジェーンはロンの言葉にぞくりとしたものを感じた。向き直ったガーデンの主に見つめられて、アナベラの肩が跳ねる。

 ロンは子どもに言い聞かせるように、ことさらやさしくていねいに告げた。


「アナベラ部長。きみは用済みだ。本日づけで解雇する。荷物をまとめて出ていきなさい」

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