206 援軍②

「あの、お客様の中には持ち物が壊れてしまう方も多いんですよ。でも今まで私たちにできることが少なくて……。だけどジェーンさんがいてくれたから、お客様にすっごく喜んでもらえたんです!」

「そうです! 自分もあんなに喜ぶお客様の顔ははじめて見ました! 整備士の魔法はやっぱりすごいんです。最近なんか『白髪はくはつの魔法使いさんはいないんですか』って聞かれるようになって――」


 ふん! アナベラは清掃部員の話を鼻で遮る。ツカツカと机を回ってきて、長い爪を突きつけた。


「そんなのは自己満足の主観的意見だろ。おまけに身内のひいき目も入って、とてもまっとうな評価とは言えないね!」

「おっほん」


 ふと、大きな咳払いが聞こえて全員の目が後方へ振り向いた。扉脇にひかえていたスーツ姿の男性は、進み出てくるなり「広報の者です」と自己紹介した。

 はじめてアナベラの表情に苦いものが混じる。


「お客様アンケートを改めましたところ、白髪の魔法使いさんについて数件お声を寄せて頂いているので、読み上げます」


 アンケート項目は印象に残ったことです、とつけ足して広報の男性は再び咳払いする。


「『白髪の魔法使いさんにブーツを直してもらいました。お気に入りだったのでめっちゃうれしいです! またこのブーツはいて来ます。ロジャーきゅん以外ではじめて推しができました!』」


 まるで女子高生みたいにはしゃいだ声から一変、広報男性は「つづいて二件目です」となにごともなかったように地声へ戻る。

 ジェーンは思わず男性を凝視した。

 七三分けした前髪を神経質そうな手でなでつけながら、広報部員は次にしなのある妙齢な女性の声を作る。若干太めだが。


「『迷子になった娘を、従業員の方に送り届けて頂いたことです。娘はその白髪の魔法使いさんがすっかり気に入って、毎日お姉さんと同じおさげのふたつ結びにしてとせがんできます。今度会えた時はぜひいっしょに写真を撮って欲しいです』」


 ジェーンはハッと息を呑んだ。〈ウォーターレイ〉で迷子になっていたマリンちゃんの母親に違いない。胸があたたかく締めつけられる。

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