205 援軍①

 彼はひとりではなかった。我が物顔で入ってきたディノにつづき、園芸部や清掃部の制服を着た者たちが三人ずつ、そして最後にスーツ姿の男まで事務所を占領した。


「なんなんだお前たちは! 今は取り込んでるんだ。部外者は出ていきな!」


 まるで汚いものを見るような目で、アナベラは手を払った。しかしディノを先頭に、園芸部員と清掃部員たちは身を寄せ合い、眉をつり上げ、頑として動かない姿勢を取る。


「あんたがジェーンが職務怠慢だの無駄話してるだのデタラメ言うから、証人たちを連れてきた」


 ディノは人さし指を耳にあてながら、ゆっくりと首をかしげる。


「耳の穴ほじってよおく聞きやがれ」


 声や表情、目は普段のディノと変わらない。けれどジェーンは彼が静かに怒っているように感じて、胸が震える。恐怖ではなく、それは喜びだった。

 ディノが目配せすると、園芸部の三人が前に出る。彼らはほうきやバケツ、網かごを抱えていた。


「ジェーンが職務怠慢なんてとんでもない。彼女は昼休みだろうと、勤務時間を過ぎていようと、俺たちの仕事道具を直してくれた!」

「サボってんのはあんたのほうだろうが! いつもいつも俺たちの依頼をあと回しにしやがって!」

「そうよ。時間がかかるなんてウソばっかり! ジェーンは直すのも創るのも一瞬だったわよ。あなたの技量がないだけなんじゃない?」


 畳みかけられる指摘と非難に、アナベラはたるんだ頬肉をぶるぶると震わせる。


「うるさいね! 仕事には優先順位ってもんがあるんだ! 客と直接関わる演劇部や広報部の依頼を優先するのは当然だろう!」

「でしたら、お客様とお話していた時間は無駄ではないですよね?」


 割り込んできた声にアナベラは「ああ?」と剣呑な眼光を飛ばす。その先にいたのは清掃部員たちだった。


「無駄話と仰っていましたが、ジェーンさんが対応されていたのはすべてお客様から声をかけられてのことです。道案内や写真撮影のお手伝いは、お客様にガーデンを楽しんで頂くための大事な仕事の一環。お客様を第一に考え動くのは、清掃部も整備部も同じはずです」

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