202 反旗をひるがえす革命者たち③

「それはおかしいな。俺が教えたことはすぐに覚えたぜ、ジェーンは」


 ラルフが矛盾を指摘する。するとアナベラは「ふん」と鼻を鳴らした。


「ということは、そいつは人を選ぶ性悪女か、男にびを売る女狐ってことだ。お前たちも騙されてるんだよ」

「違う! ジェーンは思い出させてくれたんだ。創造する楽しさ、想像する自由を。今までの僕はただ流されてきたんだって気づかせてくれた!」

「クリス……」

「それのなにが不満なんだ。波風を立てず、穏便にやり過ごすことを望んだのはお前だろ、クリス。あの秘密をバラされてもいいのか」


 えっ、とジェーンは目を見張る。その間もアナベラの威圧は留まることを知らず、今度はラルフへ牙を剥く。


「お前は彼女と結婚したいんだろ。その恥ずかしい体型に加えて無職の男なんて、彼女は受け入れてくれるのかねえ」


 ラルフは眉根を寄せて鼻をすすった。言い返せない彼をせせら笑って、アナベラの目はぎょろりとレイジを捉える。


「レイジ、お前はなにもなかったね。守るものも目標も、志も。そうさ、お前はからっぽだ。いつ辞めたって構わないよ。お前程度の代わりはいくらでもいる」

「んだと……! だったら辞めてやるよ! お前みたいなクソババアの下で働きつづけるくらいなら、野垂れ死んだほうがマシだ!」

「レイジさん!? 落ち着いてください! 挑発に乗っちゃダメです……!」


 近くのイスを蹴りつけ、制服の上着を脱ごうとするレイジをジェーンは慌てて止める。ラルフもクリスも、迷いと悔しさを湛えた面持ちでうつむいていた。

 先輩たちが今までどれだけ守りたいもの、叶えたい夢のために、苦汁を飲んできたか思い知り、ジェーンは唇を噛む。

 同時に、許せないと思った。みんなの大事なものを盾に、親の牙を振り回し平気で踏みにじる女帝に怒りが湧く。

 その時、すさまじい轟音ごうおんが事務所をつんざいた。目を剥いて振り返ると、ニコライが机に拳を突き立てている。


「もういい。てめえの顔色をうかがうのも飽きた」

「おやおや、ニコライ。四人の子どもを抱えた若い奥さんに苦労をかけたいのか」

「うちのはここで体を張らなきゃ離婚するって言い出すような女だ。てめえといっしょにすんなよクソアマ」

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