203 反旗をひるがえす革命者たち④

 なんだかいつものニコライじゃない。いかった両肩からほとばしる圧は、ジェーンの肌もピリリと粟立たせる。

 そこへ引きつった悲鳴をもらしたラルフが、ぼそりと言った。


「やっべえ。ニコライ、元ヤン出ちまってるう」


 元ヤンの意味はわからないが、やばいことは確かだ。


「誇りも信念もなく生きてんのは脱け殻だ。そうだろノーマン!」

「ひえっ!? な、なんで僕に振るんだよおっ」


 突然矛先を向けられて、ノーマンは憐れなほど震える。助けを求めるように視線がアナベラへ泳いだが、がんをつけられて壁に張りついた。

 そんなノーマンにニコライは一歩詰め寄る。


「アナベラの腰巾着のてめえは知ってんだろ。なんでこんなふざけた解雇通告が起きたのか。ああ?」

「えっ、あ、僕は」

「なにも答えなくていいよ、ノーマン。お前には関係のないことだ」


 震えた声を上げるノーマンをアナベラはぴしゃりと制する。しかしジェーンはノーマンが浮かべた安堵の表情も、アナベラの妙な言い回しも見逃さなかった。


「なにも答えない? どうしてですか。反論もなさらないつもりですか。やましいことがないのなら違うと仰ればいいですよね」

「黙りな、ジェエエエン。お前は意見を言える立場じゃないだろ。この犯罪者が」


 罵声を浴びせるアナベラを、ジェーンは静かに見つめ返した。せつな、アナベラは面食らったように目をしばたかせたが、すぐに半眼になってにらんでくる。

 けれど覚悟を持ったジェーンはまったく意に返さなかった。憤りも憎悪も感じない。込み上げてきたのはむしろ、女帝への憐れみだった。


「ノーマン。てめえは人の波長に合わせるのがうまい」


 出し抜けに、ニコライがそう口にする。意図を尋ねるようにノーマンは首をかしげた。


「そうやっててめえはこれまで、うまく世の中を渡ってきたんだろ。それはてめえの美点だ。アナベラとも交流してきたことはある意味尊敬する」

「な、なんだよ急に。なにが言いたいんだ」

「てめえ自身はどこにいる」

「え?」

「てめえの魂はどこにいったんだって聞いてるんだ。てめえの言葉を他人に喋らせてんじゃねえぞ! ノーマン、てめえは気の強い嫁と娘に振り回されているようで、振り回されてやってる。いつも家庭のグチを言ってたてめえは、そういう強さを持った男だった!」

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