199 炎症した心⑦

 まだ少し強張る頬で微笑んでみると、ディノは小さく笑い返してくれた。


「とりあえずダグラスたちには話さなくていいだろ」

「いいんでしょうか……」

「ロンだって疑問を感じてるはずだ。あとで電話して聞いてやる。たぶんアナベラに話聞きに行くだろうから、俺も同行してジェーンに教えてやるよ。だからあんたはまず風邪を治せ」

「ですが……」


 ロンと聞いて、アナベラの後ろ楯の存在が過った。それは女帝の父親で、クリエイション・マジック・ガーデンの土地の元オーナーだという。つまりロンはアナベラの父から土地をゆずり受けた身だ。

 その貸しがあるからこそ、あれほど横暴で悪い噂が絶えない人にも強く出られなかったと、園芸部部長ブレイドが言っていた。

 アナベラの機嫌を損なえば父親の怒りを買い、ロンの立場が危うくなるのでは。そんな危険を息子のディノだって、父に冒して欲しくないはずだ。

 ジェーンはにわかに、激しい自責の念に駆られた。


「ロン園長の立場が危うくなるようなことがあれば、私は耐えられません。わ、私が我慢すれば済む問題だというなら、私はそれでも……!」


 構わない、とつづけたかった言葉は震えて出てこなかった。クリスやレイジ、ルームメイトたちの顔が浮かぶと、失うことが怖くなる。

 創造魔法士としてもっとみんなの役に立ちたい。クリスの考えた衣装が舞うショーを見てみたい。お客さんをもっと笑顔にしたい。

 そんな誇らしい自分になって、ダグラスに好きだと伝えたい。

 夢と希望をきつく握り締めて凍える手に、褐色の大きな手がそっと重ねられた。


「心配するな。ロンはやる時はやる人だ。あんたはただ堂々と胸を張ってろ。そのほうがロンもやりやすい」


 ディノは前を見つめていた。素っ気ない横顔が気負うなと伝えてくれる。それに触れ合った手はあたたかった。ここにいる。独りじゃないと感じさせてくれる。

 握る締めるでもなく、ただジェーンの手の上に置かれたディノの手を見ていると、また鼻がつんと痛んできた。でもそれはちっとも嫌な気はしない。押し込めようという気にもならない。

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