198 炎症した心⑥
「ディ、ノ……っ、でぃのお……! 私は醜いですっ、嫌な女です……!」
「なんでだよ」
「私は、わたしはダグの恋人だったんです……! 覚えているんです、やさしいキスも力強い腕も、激しく私を奪った眼差しも……! でも今彼の心にいるのは私じゃないっ。彼の心はプルメリアが奪ってしまった……ダグが自ら差し出して……! 私にくれたものだったのに、全部忘れてしまった!」
「そうか。あんたはやっぱり、愛しい人をずっと待ってたんだな……」
「悔しい! プルメリアが羨ましい……! だけど、だけどっ、はっきりダグの恋人だと言えない自分に一番腹が立つんです……!」
嗚咽に震える背中をディノはゆったりと叩き、あやしてくれた。ティッシュでひと息つかせては、また当然のように腹を貸してくれる。
なぐさめも励ましの言葉もなかった。だけど沈黙はジェーンの思いに寄り添い、あるがままを受けとめる。それがどうしようもなく心地いい。
やがて涙が引いたあとも、ジェーンはしばし目を閉じてディノに身を預けていた。
「それと、アナベラ部長から解雇を言い渡されました」
「普通それを先に言わないか?」
呆れた目を向けられて、ジェーンはぶすりと唇を曲げる。正直、あのオバサンよりもダグラスのことのほうが何倍も大事だ。しかしこちらも放置はしておけない。
まさに物のついでに相談したジェーンに、ディノはため息をついた。
「なにやらかしたんだ」
「なにもしてませんよ! 解雇理由は遅刻と無駄話、それに領収書の偽造と経費の不正請求だそうですけど、問題視されるほど逸脱した覚えはありません。もちろん経費だってアナベラ部長の指示で、私はなにも、知らなかったんです……」
無知を主張するも同然の言い訳に、ジェーンはどうしても言葉尻が弱くなる。
知らなかったほうにも少なからず非はあるだろう。それが許されるなら、万引きも詐欺も悪いことだとは知らなかったで済まされてしまう。
ふがいなく思う心を汲んだのか、ディノはぽんっと軽くジェーンの頭に触れた。
「あんたの記憶障害につけ込んだんだろうが。他の理由も当てつけとしか思えない。気にすんな」
「ありがとうございます、ディノ。そう言ってもらえると気持ちが楽になります」
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