196 炎症した心④

「まあた、妙な絡み方するつもりじゃないんスか」

「うーん。園芸部では普通らしいけど……」


 うっとうしそうに顔をしかめたと思ったら、ディノはダグラスとルークの鼻先で扉をぴしゃりと閉めた。そのまま鍵までかけてしまう。

 ジェーンも寝ている場合ではなくなり、身を起こす。

 開けろ! おい! と喚く扉に向かって、ディノは腰に手をやった。


「みくびるなよ。病人をわずらわせることはしない。ジェーンとゆっくり話したいんだ。席を外してくれ」


 ディノの声に懇願こんがんにも似た音色を感じたのは、ジェーンだけではなかった。扉は大人しくなり、やがて床板のきしむ音が鳴る。


「ディノの気持ちはわかった。ジェーンがいいって言うなら、俺らは下がるよ」


 ダグラスの言葉にジェーンはちょっと迷ったのだが、


「ジェーンもいいと言っている」


ウソつき男がいけしゃあしゃあと返事した。

 ぽかんとしているうちにダグラスは「わかった」と請け合い、「あんまり長話しちゃダメっスよ」と言うルークの声が遠ざかっていく。

 痛むのどに邪魔されて大きな声も上げられず、ジェーンはふたりの足音が小さくなっていくのをただ聞いていた。

 ダグラスとルークの気配が完全に消えたところを見計らったかのように、ディノが動き出す。ジェーンは思わずびくりとしてしまったが、ディノが向かったのは机でティッシュ箱を持った。

 一体どうするつもりなんだろう。内心首をひねるジェーンに、ディノはティッシュ箱を突き出す。


「泣け」


 いきなりの命令口調だった。


「えっと、どういうことでしょうか」

「自分で気づいてないのか? あんたひどい顔してるぞ」


 思わず顔を触る。確かに鏡の中の自分はとても情けない顔をしていた。でもまぶたの腫れだって目の赤いのだって、むくんでいるとかこすり過ぎたとか、いくらでも理由づけられる程度だった。

 だって泣いていない。込み上げてきただけで、すぐに飲み込んだ。涙を流していないのだから、それは欠伸と同じだ。


「ひ、ひどいなんて、ひどいですよ。それは寝起きだからです。それに熱があって頭痛いから。風邪のせいです」

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