179 バーベキュー!③

 そこまで言ってダグラスはからりと明るく笑った。


「でも都市伝説みたいなもんだよ。森は国の保護区に指定されてるから、勝手に入っちゃいけないんだ」

「だからいろんな噂が立つのよねえ。あの山の向こうは断崖絶壁で、そこが世界の終わりだとかね」

「山も入っちゃいけないんですか?」


 ジェーンの言葉にカレンは「ええ」とうなずく。


「固有種の草花を保護するためよ。世界の終わりっていうのは親が子どもに言うこと聞かせるための方便ね」

「私もお母さんに言われたなあ。いい子にしないと、山の向こうの崖に突き落とすわよって」


 プルメリアはのほほんと笑って言うが、なかなか衝撃的だ。それを言われたら子どもはみんな青ざめて、心を入れ替えるに違いない。

 ……私もお母さんに、そんな風に怒られたことがあったのかな。


「なあなあ。そろそろデザートにしないか? マシュマロ買ったんだ!」


 買い物袋から大袋のマシュマロを取り出して、ダグラスは掲げてみせる。


「それたき火でやるものじゃない?」

「いいじゃん、焼ければ。ほら、カレンも手伝って!」


 仕方ないわね、と微笑むカレンにつづきルークも駆け寄る。クレープが好物のディノも、無表情だったが足が吸い寄せられていた。


「あっ、マシュマロで思い出した!」


 ふいに声を上げたのはプルメリアだった。彼女はイスの背もたれにかけた小振りのリュックの元へ行き、漁りはじめる。パステルブルー色のなにかを取り出したかと思うと、ジェーンに差し出した。


「はい。この間、助けてくれたお礼だよ」


 助けたと言うと、男の子とぶつかって泣かせてしまった時のことしか心当たりがない。ジェーンは目をぱちくりさせる。


「でもそのお礼はもうバーベキューで頂いています」

「そうなんだけど、私が個人的にお礼したかったんだ。あのガラスのレーゲンペルラ、男の子すっごく喜んでくれてね! 次の休みの日も持って見せに来てくれたの。毎日いっしょに寝てるんだって」


 プルメリアは口に手をあてくすくす笑う。自分が素敵な贈りものをもらったようにうれしそうだった。

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