177 バーベキュー!①

 市販のパンにたっぷりとバターを塗って、こんがり焼き上がったステーキを挟む。ハニーマスタード、バーベキューソース、トマトソース、ハーブソルト。味つけはお好みで。

 シュワッと弾けるオレンジやレモンの炭酸ジュースを片手に、天高く乾杯した。


『いただきまーす!』


 見たこともないぶ厚い肉は、どこから攻めようかと悩ませてくる。迷った末ジェーンは、端っこから思いきってかぶりついた。

 てらてらと光る肉汁があふれて指に垂れる。しかし超重量級の肉は、そんなことに気を取らせる暇を与えない。

 歯を突き立て、噛みちぎる。まるで飢えた獣のように食らいつく野性を、圧倒的存在感を放つ肉に引きずり出される。そして口内を占領するのは、肉を蹂躙じゅうりんする至福。噛めば噛むほど、従順になっていく甘美な興奮に背筋が震える。

 炭の香ばしさ、ハチミツのさわやかな甘さのあとに、マスタードの辛味が咀嚼そしゃくを夢中にさせる。そしてパンに塗ったバターがそれらすべてを包み込み、のどを通る瞬間まで芳醇ほうじゅんな味と香りを放つ。

 指についた脂一滴さえもったいない。ジェーンはぺろりと舐め取って身をよじらせた。


「おいしいー! シンプルな味が最高です!」

「塩だけでもめちゃくちゃうまいっスよ!」

「バーベキューとトマトソースのハーフにした俺は勝ち組」


 得意げな顔のダグラスに、ルークはその手があったか! と悔しそうに唇を曲げる。


「ズッキーニもとろとろでおいしい!」

「男子、野菜も食べなさいよね」


 串を振って喜ぶプルメリアの横から、カレンは男子陣に釘を刺す。ジェーンも慌てて串焼きに手を伸ばした。

 こっちはハーブソルトで食べてみる。プルメリアの言った通りズッキーニはとろとろで、噛まずとも舌の上でほどけていく。トマトは歯をあてたとたん汁が弾け、まるで飲み物だ。そしてパプリカはくだもののように甘い。

 それがハーブソルトでよりいっそう引き立ち、ジェーンはいくらでも食べられると思った。


「お肉と野菜のおいしさはもちろんだけど、やっぱり自然の中で食べるとおいしいね」


 そう言って遠くに目を向けたプルメリアの視線を辿る。

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