173 初めての遠出①




 * * *



 コンッ、コンッ。

 自室の扉をノックされ、ジェーンは深く潜ったベッドから冬眠中に叩き起こされたクマのように唸った。


「ジェーン。だいじょうぶ……?」


 その返事をしっかり入室の許可と受け取り、プルメリアが遠慮がちに入ってくる。ジェーンはイモムシさながら這って、上かけから頭を突き出した。

 しかし起き上がる気になれない。まぶたが重い。五秒と持たず、枕に突っ伏す。そのまま口を開いた。


「……なんでしたっけ?」

「ええと、昨日みんなでバーベキュー行こうって話したのは覚えてる? ほら、私とカレンが助けてもらったお礼もまだだったから、それも兼ねて」

「うー」

「ジェ、ジェーン? やっぱり疲れてる? やめたほうがいいかな……」

「おきます。今おきます。もうおきました……」


 渾身こんしんの力を振り絞り起き上がる。しかし頭を支えるまでの余力はなく、かくんと項垂れる。

 まぶたを開くことさえめんどうだと思う重怠さが、全身に伸しかかっていた。まるで血といっしょに生命力まで流れ出ているかのようだ。


「急がなくていいよ。先に私とダグとルークくんで買い出しに行ってくるから。ゆっくり仕度してね」


 気遣ってくれるプルメリアの顔を見ることも叶わず、見送ることになる。

 ルームメイトとバーベキュー。はじめての遠出。行きたい気持ちは山々なのに、それと同じくらい手足がベッドに引き寄せられる。

 プルメリアはなんて言ってたっけ?

 回らない頭で反芻はんすうしたジェーンは、ようやく言葉の意味を理解して頭から枕に突っ込んだ。


「ダグラスは私を待ってくれないんですね……」




 生理なんて最悪だ。消えてなくなればいい。

 路面電車に揺られ、〈東中央御園駅〉で鉄道に乗り換える時も、ジェーンの気分は上昇してこなかった。

 立っていると股のあたりが張っている感覚がして、地味に痛い。そんな状態なのに、バーベキューができるキャンプ場までは列車で四時間かかると言われたのだから、たまったものではない。

 それに朝ナプキンを換えようとしたら、赤黒いゼリーみたいな血の塊が付着していた。こんな勢いで流血していたら、油断すると吸水パットの許容量を超えてしまいそうだ。

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