174 初めての遠出②
気が気でない上に肌の手触りも悪くなっているし、踏んだり蹴ったりである。
「ジェーン、ここ座れよ」
はじめての列車に感動する余裕もなく、ルームメイトにつづいて乗り込んだジェーンはふいに手を引かれた。六人がけのボックスシート、その窓際の席に導かれてホッと息をつく。
「よかった。ありがとうございま――」
ジェーンをうながしてそのまま横に座った人物を見て、思わず言葉が詰まった。ダグラスだ。しかも肩が触れ合うほど近い。長いまつ毛の瞬く音まで聞こえてきそう。
「城の修繕で問題起きて、大変だったんだろ。着くまで寝ててもいいからな」
にっかりと笑いかけられて、頬に体温が戻る。彼とは毎日会っているのに、やさしい言葉と笑顔に慣れることなんてちっともない。
「いえ、寝てしまうなんてもったいないです」
「えっ」
戸惑うように笑みがぎこちなくなったダグラスに、ジェーンはやけに熱っぽいことを吐いた口を押さえた。
取り繕ろうと無闇に目を泳がせると、向かい席でにやにや笑っているルークや、わざとらしく目を背けるカレンがいる。正面のディノは窓枠に頬づえをついて不機嫌そうだった。
「あ、あのっ、みんなとはじめての遠出なので! そういう意味です!」
「その割には寝坊してきたけどな」
ディノの指摘がトスンッと胸に刺さる。
「ディノくんは楽しみにしてたっスもんねえ」
「誰が」
すかさずルークが茶化して、なごやかな空気に変えてくれた。ディノの頬をつんつんとつつき、ふざけるルークの隣からカレンがジェーンに視線を寄越してくる。
なんだろうと思って見ていると、彼女のレモン色の目はしきりに横を指した。そこにはプルメリアと話すダグラスがいる。
ジェーンが小さく指さすと、カレンは大きくうなずく。そして、行きなさいとでも言うかのように頭を振った。
今、行けと? アピールのチャンスだと言うのか。
ジェーンは全力で首を横に振る。ダグラスとプルメリアは大学時代も仲間と出かけたことを話していた。ジェーンの知らない領域だ。踏み込んでいけるはずがない。
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