160 緊急事態③
「とりあえず、無事でよかった。塔も最悪の事態は免れたしな。でも、これがなかったら正直わからなかった」
ラルフが振り返ったものを見てジェーンは目をまるめた。
ニコライが手をついて誤って柔軟加工してしまった壁を、うっすらと青いものが覆っている。それは金属のような光沢を帯ながら、まるでクモの巣のように天井に向けてぴたりと伸びるやわらかさを持っている。
スライム? いや、塔を支えるほどの強度はないはず。
「さすがニコライ。とっさにここまでの補強をするとはな」
「いや。それは俺じゃない」
ひび割れたメガネ越しにニコライの目がジェーンを映す。その視線を辿ったラルフは、こぼれんばかりに目を見開き、マジかよ! と叫んだ。
「これジェーンがやったのか!? どう配合したらこんな金属になるんだよ!」
「わ、わかりません。夢中で……」
「ラルフ、話はあとだ。ここを、片づけな……」
ニコライの言葉尻を咳が奪う。気遣うラルフに彼はだいじょうぶだと返すが、立ち上がった足元は見るからにふらついていた。
「ダメだ、ニコライ。今のお前に仕事はさせられねえ。タクシーを呼ぶから今すぐ帰れ」
「くそ……! だがここの後始末はどうする。開園時間までに元通りにしなきゃならない」
ラルフは腕時計を確認した。
「九時半、か。もし城を臨時運休にするなら、対応時間も考えて朝五時には園長に連絡入れたいところだな。つまりタイムリミットは七時間半……」
「天井、それに床もダメージが入っただろう。それの修繕と、壁には念のため一面に強硬加工をしたほうがいい。問題は消去作業だ。特に……」
作業量を整理するニコライが見つめた先には、ジェーンが創造した補強金属があった。
創造魔法の中で最も時間がかかり、魔力消費の激しい技術が、対象を水蒸気へと性質変化させることだ。
レイジの前で披露した園長室は、完全消去するまでに昼休み中に終わらず、帰りに寄ってやっと消えた。アナベラと新遊具対決した試作品なんて、整備士総出で一週間もかかった。
消耗する魔力が著しいために、三十分に一度は休憩を挟む必要がある。それを三回もくり返せば魔力が底を尽き、しばらくは魔法が使えない。
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