155 練習!練習!練習!①

 しかし城の修繕作業は、ただピカピカになればいいというわけではなかった。


「ちょ、この床白過ぎい! 新築かよ!? ここは歴史深い城なんだぞ!」


 遠目からも輝いて見える白をイメージして修繕した床は、全部やり直しになった。何年、何百年も人々が暮らした“風味”を出さなければならないらしい。

 ラルフが見せた手本は確かに、白がくすんでいた。


「待て待て待て! この壁の崩れはいいの! そういう演出なの! ほら、がれきも危なくないようにくっついてるし、角取ってあるだろ!?」


 次は崩れた壁を直そうとしたら、全力で止められた。あえての劣化演出ということだ。ややこしい。

 じゃあ、とひび割れたレンガを指すとそれは直せと言われた。違いがわからん。


「むう。意外と難しいです。特に色を合わせるのが……場所によって少し変えてますよね?」

「お。よく気づいたな。奥行きを出したり丸みを持たせたりするのに、微妙に変えてんだよ。ま、練習あるのみだな!」


 がんばれ、と背中を叩かれてジェーンは息を詰まらせながらもうなずいた。




 トイレ掃除、園芸部出張、城の修繕と渡り歩く日々は一週間つづいた。

 ジェーンは寝る間も惜しまない覚悟だったが、ニコライとラルフは夜九時を回るとジェーンを追い出しにかかった。理由は「安全上の問題」らしい。

 お陰で日勤もなんとかこなせている。


「ジェーン、かごが割れちゃったんだ……! 直してー!」

「はーい。いいですよー」


 夜勤の他にもジェーンの練習場は増えていた。それは園芸部や清掃部の備品修理だ。


「ジェーンがいて本当に助かるよ。一週間も前に依頼書出したのにさ、全然やってくれないんだもん」

「すみません」

「あっ、違うよ! あの部長さんがえこひいきするからだって、わかってるからね」


 ジェーンは苦笑いを返すしかない。この女性園芸部員の言う通りだった。

 どうもアナベラは演劇部や広報部の依頼を優先して、園芸部と清掃部からの仕事はあと回しにしているらしい。ジェーンを嬉々として園芸部に送り出したように、それらの部署を見下しているきらいがあった。

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