154 夜のひみつの趣味④

 ぶつくさ垂らしながらラルフは壁際でしゃがみ込む。ジェーンもあとをついていって、肩越しに覗き込んだ。壁と床の境目がカビで黒ずんでいる。


「こうなったらそこだけ取り除いて、また創造するんだ。まずは雲レンガをやわらかく加工する。範囲は最小限にしろよ。崩落するかもしれないからな」


 黒ずんだ箇所をラルフはトンッと叩いた。見た目の変化はなかったが、指を入れるといとも簡単に埋まっていく。

 ラルフは取ったカビをゴミ袋に入れて、指を軽く振った。すると雲レンガがもこもこと湧いてきて、くり貫かれた穴を塞いだ。


「あとは劣化して崩れてるところとか、汚れをきれいにするってところだな、修繕作業は。魔法の練習にはちょうどいいだろ」


 もうひとつのゴミ袋をポケットから取り出して、ラルフはにっと笑う。それを受け取りながらジェーンは力強くうなずいた。


「はい! がんばります」

「じゃあそっちは任せるぞ、ラルフ。俺は塔の改創に入る」


 ニコライは塔へと戻っていく。扉から顔だけ出して目で追うと、ニコライは螺旋階段を上って三階の扉に入っていった。

 あの部屋が宿泊施設になる予定らしい。


「二階にはなにがあるんですか?」


 広い城内を探索したい欲を抑えつつ、ジェーンは戻ってラルフに尋ねた。


「あー。東西に画廊があるからな。その受付とか整列場所になってる。常設してんのはガーデンの成り立ちを描いた神話の絵だ。でも東側じゃあ写真コンテストとかいろいろやってるぞ。ちなみにここはワークショップで、反対側は貸し衣装屋。子どもから大人まで貴族や王族になって写真撮ったり、園内を散策できる」

「わあっ。楽しそうですね!」

「楽しいもんかよ。ここなんかちびどもが絵の具やらなんやらベタベタと汚して……おい、ジェーン! きびきびやらねえと帰れないからな!」

「やってますよう!」


 部屋を分断する長机越しに、ジェーンはゴミ袋を振ってみせた。カビの染みついた雲レンガがたぷたぷ揺れる。


「早えな、おい。アナベラにこき使われてるだけあるな」

「それはうれしくないです!」


 確かに掃除は好きだ。汚れが落ちてきれいになると気持ちいい。それはシェアハウスでも同じで、ルームメイトからはいつの間にかきれい好きだと思われていた。

 だが断じて、アナベラのお陰なんかではない。

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