153 夜のひみつの趣味③

 正面には円筒形の塔が四つ建ち、その上に円錐えんすいの屋根が乗っている。塔と塔の間には窓が十もはめ込まれた屋敷が繋ぐ。

 しかし中央の塔に挟まれた建物だけは下部がアーチ状にくり貫かれ、クリスタルのように輝く門が開け放たれていた。

 来園客はとうに帰り、日が落ちかけた今、静まり返った白雲城だけが青と紫の照明に浮かび上がっている。


「今やってんのは全体の修繕と、塔の改創かいそうだ。全部で九つある塔と城の一部を、宿泊施設にしたいんだとよ」


 ラルフが指し示した城門上のひと際高い塔を見て、ジェーンは目を見開く。


「さしずめ、あそこがスイートルームだろうな」


 その声は届いていなかった。塔の先端付近にあるバルコニーに目が吸い寄せられる。

 バルコニーはまるで美しい船首のように競り出ていた。手すりを支えるのは、大翼を広げた鳥だ。きっと神鳥アダムに違いない。

 鳥はのどを反らしくちばしを開け、その美しい歌を今にも大空へ響かせようとしている。


「ジェーン、行くぞ。……ジェーン!」

「あっ、はい! 今行きます……!」


 城門を潜ったニコライに呼ばれてはじめて、ジェーンはぼんやりしていたことに気づいた。

 なぜだろう。数秒しか経っていないはずなのに、図書館から借りた長編物語を読み終えた時のように、胸がドキドキする。

 これは恐怖? いや、畏怖いふ……?

 城門から伸びるアーケード内には左右に扉があり、ジェーンはニコライにつづいて中に入った。城内は壁も天井も床も白い。しかしわずかな凹凸があり、照明の光を分散させて眩しいということはなかった。

 螺旋らせん階段のある塔から屋敷に踏み込んだところで、足音が一切しないことに気づく。ジェーンは床に手を伸ばした。


「ふわふわしてる。これは雲ですか?」

「そう。城は基本雲レンガで創ってる。軽くて丈夫。除湿、加湿の調節も効いて、冷水や温水で夏も冬も快適。おまけに消す時も楽だ。現代建造物の最も主流な素材だな。まあ軽過ぎて強風対策には苦労するが」


 そう言ってラルフはなにかに目を留め舌打ちする。


「あと大量の水もダメだな。この時期は特にカビとかコケが生えやがって」

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