152 夜のひみつの趣味②

 ニコライ先輩お口悪いですう、とラルフが茶々を入れてくる。


「下手したらロン園長の首を締めることになるんだぞ」


 ひたと注がれる視線を、ジェーンはまっすぐ見つめ返した。

 意思は復讐ふくしゅう者のように固く、けれど唇には無垢な微笑みを絶やしてはならない。これはジェーンとアナベラの根比べ。そういう戦いだ。


「私はただまっすぐに、誠実に、歩いていくだけです」

「そうしたらいつかあのオバサンも、目を覚ましてくれるって? バカらしい」


 ラルフがすかさず吐き捨てる。


「いえ。あの人が口を出せないほど完璧な創造魔法士になるんです。確かな実績で外堀に堅牢な砦を築くんですよ。彼女が私を敵に回さないほうがいいとわかれば、良好な関係になれます。そのためにもおふたりの技術を――あれ?」


 目を向けると左右から先輩の姿が消えていた。振り返れば少し離れたところで、なにやら引きつった笑みを浮かべている。

 ジェーンは首をかしげた。


「どうかしました?」

「いや、なんでもない……」

「そうそう。アナベラより怖いかもとか思ってな、あだ!?」


 誤魔化したニコライが、口の軽いラルフの後頭部をはたく。ということは、ニコライの飲み込んだ言葉も花粉症先輩と同じということだ。

 ジェーンはムッと唇を突き出して先輩たちの後ろに回り、背中を力いっぱい押した。


「早く行きますよ! 私、終電には帰りたいんですから!」

「おー、コワッ。こりゃ新たな女帝現れるだな、ニコライ。ジェーンは小さいから小皇女しょうこうじょとでも呼ぶかあ?」

「笑えないぞ、アナベラ二世なんて」


 聞き捨てならないあだ名をつけるオジサマどもに、ジェーンはきつい一発をくれてやった。




 整備部事務所側のエレベーターから地上に昇り、青い光レンガ道の先に待つ雲のトンネルを抜けた向こうが、雲の城エリアだ。ここは、神話では大空の民と呼ばれた人々の国をイメージしている。

 その象徴とも言うべき純白の城は、虹の橋を渡った浮遊する雲の丘に鎮座していた。


「これが雲の城……」


 有事には難攻不落の城塞として民の盾となろう勇壮な外観に、ジェーンはため息をこぼす。

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