151 夜のひみつの趣味①
次の日からジェーンはアナベラの言いつけ通り、午前はトイレ掃除と雑用をこなし、午後は園芸部に出張した。
出張というのは、ブレイドが自分から頼んでそういう形にしてもらったと話を作ってくれたのだ。まったく、ロンの友人というだけあり彼も粋な人だ。
お陰で園芸部員からは怪しまれるどころか、自分たち専属のなんでも屋が来てくれたと喜ばれた。ただディノだけは、怪訝な目をしていたが。
そして業務終了後は、まっすぐ帰宅して悠々自適な時間を楽しむ――そんなジェーンではなかった。
「まったくよお。帰れって言ったのに、お前も怖いもの知らずだな。アナベラに目えつけられまくってんのわかってるだろ」
「ラルフさん、今日はいつにも増して鼻声ですね。今はなに花粉ですか?」
「ハンノキ属とイネ科だバカヤロウ」
「耳慣れない植物の花粉まで
「一ミリもうれしくねえんだよ! つか話を逸らすな!」
ぶつまねをされて、ジェーンは嬉々と悲鳴を上げ前を行くニコライの元に逃げる。
「遠足気分なら今すぐ帰れ」
ショートローブのフードをむんずと掴まれて、ニコライに放り投げられた。しかしジェーンはめげずに、事務所から拝借したバインダーと筆記具を抱えて駆け戻る。
「それはできません。私はもうみなさんのアナベラ部長に対する思いを知りました。そしてみなさんが、耐えて守ってきたものを崩しかけていると感じてます。このままなにもせずにはいられません」
「はーん? きれい過ぎるなあ。本音は?」
と、ラルフが肩に寄りかかってくる。
「クソババアに煮え湯を飲ませてやります」
「なるほど。レイジは後輩に悪影響を与えているな」
「いやいや、ニコライ。クリスもあの顔で結構毒吐くぜ?」
ラルフはぽよぽよと腹を揺らして笑い、おもしろがる。ますます体重をかけられてジェーンがよろめくと、ニコライは赤ひげ面を押しやってくれた。
そしてメガネを上げつつ、諦めたようなため息をつく。
「意気だけは認めてやっていいが、あんまり引っ掻き回されるのは俺たちのためにも、ガーデンのためにもならない。あの女はどうでもいい。しかし元オーナーのジジイはしぶとく健在なんだ」
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