156 練習!練習!練習!②
そのやり方に業を煮やし、ジェーンに直接持ち込まれた依頼は、クリスやレイジに報告して書類処理してもらっている。
「ジェーンさん、お仕事中にすみません。お客様のヒールが壊れてしまって、直せますか?」
園芸部に出張してよかったことが、もうひとつある。それは地上によく出るようになったことだ。
すると客から写真撮影を頼まれたり、道を聞かれたりして、裏方では味わえない交流が広がった。そうしてたまに清掃部員が、客の持ち物が壊れたとジェーンを頼ってくる。
「もちろん直せますよ!」
ヒールを繋ぎ直し、ついでに汚れや傷も消して新品同様に返すと、どの客も満面の笑みを咲かせてくれた。
「ありがとうございます、魔法使いさん!」
「でも魔法使いなのにつなぎ服なんですね」
土まみれの作業服を指摘されることも毎度のことだ。
でも、うれしかった。自分の魔法が誰かの役に立つ。誰かを笑顔にすることができる。その喜びがますますジェーンを練習へと駆り立て、魔法は努力に応えてくれた。
「ジェーン、軍手に穴が……わ!?」
今はもう、小さなほころびくらいなら見なくても直せる。
創造魔法は私の誇り。
「あのさ、言いたくなかったら無理に言わなくていいんだけど」
だからダグラスが遠慮がちに尋ねてきた時も、扉の隙間から聞き耳を立てているルークとカレン、プルメリア、ディノに気づいても、おだやかに微笑みを返せた。
「ジェーンが最近、園芸部に出張してるって聞いたんだ。もしかして整備部でなにかあった……?」
「園芸部の備品は修理の必要なものが多いと聞いたので、私から志願したんです。魔法の練習のために」
「練習? そっか。じゃあだいじょうぶなんだ。……あっ、いや別に変な想像はしてないからな!? ちょっと気になっただけで! 最近帰り遅いし」
「ふふっ。はい。ダグラスは心配してくれたんですよね。ありがとうございます」
ダグラスとルームメイトたちのやさしさがくすぐったくて、心から笑みがあふれる。
記憶喪失になっても、職場の上司に嫌がらせをされてもがんばれるのは、いつもあたたかく「おかえり」と言ってくれる人たちがいるからだ。
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