149 ジェーンの決意②

「残業するっていうのか? そんな勝手な理由じゃ金は出な――」

「いいえ。ただの趣味です。仕事終わりになにをしようと私の自由ですよね?」


 ブレイドの受け売りを口にするとニコライは目を細め、ラルフは言いかけた言葉を飲み込んで固まった。まるで珍獣でも見たような顔をしている。

 ジェーンはニコライに懸けて、じっと見つめた。


「ダメだ」


 しかしニコライはまたしてもきっぱり断り、歩き出してしまう。ジェーンはすかさず食らいつく。


「どうしてですか」

「業務の安全上だ。俺とラルフはお前の子守りをする気はない」


 てきとうな理由で遠ざけられているとジェーンは感じた。本当は創造魔法どころか、記憶もあやふやな新人を疎ましく思っているのではないか。

 なにせニコライとラルフは、アナベラに愛想を振りまいているノーマンと同期だ。今まで話す機会がなくはっきりとはわからないが、アナベラ派であってもおかしくない。

 それでもジェーンの希望は、アナベラのいない夜間とその時間に勤務しているふたりの先輩だけだ。


「子守りなんてしてもらわなくて結構です。私は勝手にします」

「てめえはわかってねえな」


 整備部事務所のドアノブに手をかけたニコライから、バチリッと電気が走ったように鳥肌が立つ。ニコライの肩や背中から昇る闘気が、目に見えるようだった。

 ひっ、と短く悲鳴を上げたラルフが、巨体をまるめてジェーンの後ろに隠れる。振り向いたせつな、ニコライのメガネが剣呑に光った。


「万が一事故が起これば、勝手にそこにいたお前を俺らは守りきれねえって言ってるんだ。俺らは労災手当てが下りる。でもジェーン、お前は完全自己責任になるんだよ。わかったら大人しくレイジにでもつきまとえ」


 あまりの威圧感にひるんでいたジェーンは、ニコライの言葉が意地悪ではなく、自分の身を思って言ってくれたことだと気づくのに一拍遅れた。

 事務所に入っていくニコライを慌てて追いかける。

 すると、


「ジェエエエンッ! どこ行ってたんだ!?」


間髪入れずアナベラの怒号が耳をつんざいた。


「ブレイド部長に頼まれて、花植えの手伝いをしていました」

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