148 ジェーンの決意①

「『困った時はお互い様』そうだったよね、ダグ」


 正門の端にあるエレベーターに乗り込んで、逸る気持ちでボタンを押す。

 途方もない迷路にひと筋の光が差し込む心地がした。それは進むべき道を指し、こっちだよとジェーンを呼んでいる。


「やさしさは、やさしさで返ってくる。反発は大きな反発を起こすだけ。簡単なことだった」


 地下に着くなりジェーンは駆け出した。ロッカーに向かうスケートボード乗りたちを軽やかにかわし、波に逆らって中央食堂をぐるりと迂回する。

 と、前方に整備士の制服を着たふたりの男性を見つけた。夜勤で出勤してきたニコライとラルフだ。


「お疲れ様です、ニコライさん。ラルフさん」


 ニコライの常時やつれ顔と、棒状の菓子を頬張るラルフのまんまる顔が大儀そうに振り向く。ジェーンはふたりの前に回って口早に言った。


「私に仕事を教えてください」


 口に手をあて咳払いしたニコライは顔をしかめた。


「お前の勤務はもう終わりだろ。知りたいことがあるなら日勤のノーマンかレイジに聞け」

「嫌です」

「はあ!?」


 大口を開けたラルフのショートローブに、菓子がぼろぼろこぼれた。


「日中はアナベラ部長が許してくれません。このままでは私は職務怠慢で追い出されます。でも仕事を取りに行ったとしても、魔法にまだ不安があります。アナベラ部長にこれ以上ケチをつけさせるわけにはいきません。だから隠れて勉強したいんです。実践的なことを!」

「おー。言うようになったなあ、お嬢ちゃん。最初は一ヶ月も持たずに辞めると思ったけど。ニコライ、どうする? 新遊具のことを考えると見込みはありそうだが」


 ラルフから振られて、ニコライはひたと視線をジェーンに定める。オレンジに染まる彼の目はタカのように鋭く、揺るがない。

 その目つきのせいか、冷たい光沢を放つメガネのせいか、黙っているだけでも妙に迫力のある人だった。


「……ダメだ。俺らは忙しい。わざわざお前のために早く来てやる義理はないし、仕事が終わるのは深夜一時だ。諦めろ」

「日勤が終わってから、ニコライさんたちと夜勤に入ります」

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