146 私にできること③

「アナベラのよくない噂は、俺もロンも聞いている。これまで何度か本人に話もした。けれどあいつは知らないふりを通す上に、噂の証拠もないんだ。加えてあいつは……ガーデンができる前の、この土地の元オーナーの娘でな。ロンもなかなか強気に出られない」

「そんな事情があったんですね……」

「古い人間の俺たちは、いろんなしがらみに囚われてる。いや、そんなのは言い訳か……」

「そんなことありません! 今日は本当に、助けて頂きました。園芸部のお手伝いができて私、とてもうれしかったです」


 深く頭を下げると、ブレイドは軍手を外した手で肩を軽く叩いてくれた。


「私にできることってなんだろう……」


 園内には閉園時間を知らせる音楽が流れる。ジェーンは地下通路ではなく、〈ウォーターレイ〉につづくガーデンの道を歩いて戻っていた。

 レーゲンペルラの鉢植えを抱えたカップルや、綿雲風船を揺らす親子が黄金に染まる帰路につき、次々とすれ違っていく。

 ジェーンが来た時、〈ウォーターレイ〉は片づけに入っていた。整列用のポールを回収したり掃除をしたりしている従業員に混じり、女の子がひとりぽつんと佇んでいる。

 あたりを見るが、保護者らしき人はいない。


「どうかしましたか? お父さんかお母さんはいらっしゃらないのですか?」


 ジェーンは女の子の前でひざを折り、そっと問いかける。女の子のぷっくりとした頬は涙に濡れていた。

 ジェーンは安心させるように笑いかけて、両手をくるくると回す。


「風船はお好きですか」


 手に巻き取るようにして創った綿雲から糸を垂らし、それを女の子に持たせてやる。小さな手はジェーンの手ごとぎゅっと握り締めてきた。


「……はい。私がきっとお母さんを見つけてあげます」


 ジェーンは女の子と手を繋ぎ、迷わず歩き出した。迷子が出た時のために、ガーデンは迷子センターを正門の脇に構えている。女の子の両親はきっとそこにいるに違いない。

 女の子のワンピースを飾るリボンは、市販品と比べると少し不恰好だった。こんなに愛されている子を残して、他にどこに行くというのか。

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