145 私にできること②
そう理解した瞬間、ジェーンは夢中で手を伸ばしていた。プルメリアのひらめく手に重ねて、魔力を走らせる。
男の子の目の前でガラスの茎が伸び、ぱかりと開いた葉は肉厚に成長していく。そして茎の先端は渦を巻き、カランコロンとしずくの花を咲かせた。
「きゃあっ、きれい! ガラスの花だ!」
「これってレーゲンペルラかな!」
男の子の泣き声はもう届かなくなっていた。突然創造された花を見ようと、客たちは再び押し寄せる。
人垣に見えなくなるせつな、ハッとあたりを見回したプルメリアと目が合った。
――ありがとう。
ほころんだ目はそう言っているように見えた。
「もう十分だ。ありがとよ」
終業時間が近づいてきたジェーンに、ブレイドはそう言ってそろそろ戻るようにとうながした。だが、花植えはまだ少し残っている。
「私、最後まで手伝います」
「いや。いいんだ、残業したってな。終業後に好きなことしたって俺の勝手だろ。お前らは時間通り帰れよ!」
ブレイドは言葉尻を部下たちに向けて飛ばす。レインコートのフードを脱いだ園芸部員たちは笑顔を覗かせて、スコップ片手に言い返してきた。
「嫌ですよー。俺らだって好きなことしてるだけですから!」
「みんなでやれば一時間もかかりませんよ!」
「ああ? ったく、少しも言うこと聞きやがらねえ。残業させてロンに文句言われるのは俺だぞ」
悪態をつきながらも、ブレイドの頬はうれしそうにゆるまっていて、ジェーンは思わずくすりと笑った。
「じゃあ、ジェーン。俺も少し帰り遅くなるから」
「はい。今日はありがとうございました、ディノ。残業もほどほどで帰ってきてくださいね」
返したレインコートを軽く掲げるディノに、ジェーンは手を振る。
言葉数の少ない彼だが、同僚たちは次々と声をかけ一目置いている様子だった。いっしょに作業していたジェーンにもわかる。ディノは仕事に
なにより、植物に愛情を持って接している。
「ジェーン、すまない」
「えっ」
突然、謝罪を口にしたブレイドに、ジェーンは弾かれるように振り返った。
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