141 レーゲンペルラ②

「もう脱いだ。それに、大した雨じゃないんだろ」


 ぽつぽつと降り注ぐ雨がもうディノの肩を濡らしている。それが自分のためだと思うと、断ろうとする手から力が抜けていった。

 借り物の雨具はぶかぶかで、裾はワンピースのように長い。ジェーンは両脇についたゴムを引き絞って調節し、あり余る袖も二の腕までまくってゴムが留まるようにした。

 深過ぎるフードは鼻まで隠れる。でもちょうどいいかもしれない。知り合いが通りかかっても、誰もジェーンだと気づかないだろう。

 タオルを頭に巻いたディノにつづいて、花畑へ向かう。濡れて黒くにおい立つ土の上には、ぴんと張った目印の糸が等間隔に敷かれていた。

 ディノは育苗いくびょう用の鉢に植わった花を両手に持てるだけ持ち、同僚がまだ手をつけていない列へ運んでいく。

 ジェーンも鉢を両手にみっつだけ抱えた。


「最初にスコップで穴を掘る。深さは十五センチくらいだ。手首から中指の先より少し浅めだな」


 手際よく土を掘り起こし、穴に手を入れてディノは目安を示してくれる。ジェーンも見よう見まねで穴を掘り、自分の手で深さを確かめた。


「あー。あんた手も小さいのか」


 するとディノはジェーンの手をひょいと掴んで、自分のそれと重ね合わせる。びっくりしてまるまった指を、ジェーンはおずおずと開いた。

 細いながらも節が際立つ褐色の指先まで、関節ひとつ分ほど足りない。


「ディノの手は大きいですね」


 テレビで観たバスケットボールも片手で掴める選手を思い出し、そのたくましさに感動する。ふと、ディノの手が指の間をなでるようにしてぎゅっと握り締めてきた。


「じゃあ、あんたは手より気持ち深めに掘って」


 いつものように茶化すでも意地悪をするでもなく、触れ合いがウソだったかのように離して、ディノは花植えに戻る。

 それがひどくジェーンの心をそわそわさせた。

 冗談だと言ってくれれば笑ったり怒ったりできるのに、知らんぷりされるとどうしたらいいのかわからなくなる。


「次は苗を挟むように持って、ポットを逆さまにして外す」

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