140 レーゲンペルラ①

 ハッと息を呑み、ジェーンはもう一度袖で目元を拭ってから顔を上げる。そこにはスコップを持ったブレイドがいた。

 ジェーンと目が合ってかすかに眉をひそめる。泣いていたなんて恥ずかしい。ジェーンは明るく笑ってみせた。


「ブレイド部長、お疲れ様です。レイジさんを探しているんですが、見かけていませんか?」

「いや、見てない。それよりちょうどいい。手伝ってくれ」


 へ? とまぬけな声をもらしたジェーンに、ブレイドはスコップを持たせてくる。


「花植え作業が遅れてる。今日中にここをやっつけちまいたいんだ」


 そう言いながらブレイドは池を見やる。二十人ほどで朝から作業していたのか、池の三分の一が花に彩られていた。確かに終業時間までに終わるかは微妙なところだ。

 けれどジェーンは慎重にスコップを返そうとする。


「すみませんが、私にお手伝いをしている余裕はありません……」


 ウソだ。余裕どころか、自分だけ仕事がない。それでも、アナベラに見つかって油を売っていると思われるのはまずかった。


「アナベラになにか言われたら、俺の名前を出せ」


 心を見透かすような言葉に、ジェーンは思わず目を見張る。ブレイドは少ししわがれた声で「ディノ!」と呼んだ。カーキー色のレインコート集団から、すぐにひょこりと長身が立ち上がる。

 ディノはジェーンに気づいたが、いつものマイペースを崩さず淡々と用件を尋ねた。


「ジェーンが作業を手伝う。やり方を教えてやれ」


 それだけ言ってブレイドは作業に戻ってしまう。ジェーンは気まずさを感じた。

 裏方の整備士が地上に出てきて、園芸部の作業に参加するなんて不思議に思われないはずがない。


「あんたレインコートは?」


 ところがディノはまっ先に装備を確認してくる。


「も、持ってきてないです。でも大した雨じゃありませんから」

「ん」


 指摘されたことを気恥ずかしく思い、フードを引き寄せるジェーンの目の前にレインコートが突き出される。見るとディノはつなぎ服姿だった。

 ジェーンは慌てて雨具を押し返す。


「いいですよ私は……! あっ、自分で創ります!」

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