139 強まる圧政③
「……ダメ。それは相手の思うツボ。もう注意もしないって言ってたし」
ということは、知らない間に減点がおこなわれるということだ。たとえジェーンのミスや職務怠慢が、意図的に仕組まれた罠だったとしても関係ない。
そうしてある日突然、解雇を言い渡すつもりなのか。
「辞めさせられるわけにはいかない。ロン園長には恩があるんだから。それに、またみんなに迷惑かけたくない……っ」
とにかくジェーンはレイジを探していた。アナベラと行動しているクリスは難しいが、ノーマンと組んで動いているレイジなら接触できる。
しかし地下の各部署を回っても、先輩は見あたらなかった。
「地上にいるのかな?」
ジェーンは中央食堂脇にあるエレベーターから地上へ昇った。〈ミルキーウェイ〉ボート乗り場の建物裏に出て、さてどうしたものかとあたりを見回す。
外は小雨が降っていた。六月の雨季に入った今、晴れているほうが珍しい。ジェーンはショートローブのフードをかぶる。
「雨具とか撥水加工って言ってたっけ。うーん。雲の城のほうはニコライさんたちが担当してるから、源樹イヴのほうかな」
もっともらしいことを言ってみて、自分を奮い立たせる。当てずっぽうでもなんでも、今のジェーンは立ち止まっていられない。
「あ、園芸部の人たち……」
ガーデンのすべての方面に繋がる中央の池に出た時だった。池に沿うメインストリートを挟むように、花植え作業をしている人々を見かけた。
ジェーンはディノがいるかな、と歩調をゆるめた。園芸部の人々はみんなそろいのレインコートを羽織り、うつむいて黙々と手を動かしている。
それが、羨ましかった。
意地悪な上司の顔色をうかがわなくていい。思考も想像も断ち切って、ただ目の前にある美しい花と向き合っていれば、終業時間なんてあっという間に訪れるのだろう。
鈍足な時間を、自分の無力さに打ちひしがれながら、過ごさなかった日なんてなかった。ガーデンに来てから、一日も。
にわかに視界がにじんできて、ジェーンは慌てて目元を拭う。
今日はなんだか変だ。いつもなら流せることに、腹を立てたり傷ついたりしている。
「どうした。なにかあったのか」
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