132 新遊具対決⑦
ここは林ではなく、うっそうとした森の中だと気づいた時、葉先からひと筋のしずくが滴り床を打つ。そこから水色の波紋が広がり、ゆったりと薄闇に沈んでいった。
「ああ、なるほど」
先ほどまでのはしゃぎぶりがウソのように、ジャスパーはぽつりとつぶやいてベルツリーに歩み寄る。そして鈴を一定の間隔でリンッ、リンッと鳴らした。
光のしずくがそれに応えて降り注ぐ。
「これは雨を表してるんだな」
クリスは満足げにうなずいた。
「合成樹皮の幹にガラスの鈴をつけたベルツリーは、振動で光るように加工してあります。鈴を弾いた振動は、部屋全体を覆っているツリーを伝い、光の雨を降らせるんです」
「森に降り注ぐ雨。おだやかな空間だな……」
どの部屋よりも広く高い空間を見上げて、ブレイドは鈴の雨音を遮ることのない声でささやく。
ジャスパーは場の空気に取り込まれる自分を、客観的におもしろがりながら言った。
「この鈴を鳴らす子どもたちと、ゆったり座って見守る親の姿が目に浮かぶ。くつは脱いだんだ。寝転がって雨空を見上げても、叱る声は響かない」
「なるほど。ひと手間かける利点はそこにもあるか」
「ようやくわかったよ」
そこへ弾んだ声を上げたのはロンだった。ロンはレイジ、ジェーン、クリスの顔を順に見ながら微笑む。
「最初のスロープで流れていたのは川だね。そして辿り着く先は海だ。背中を押す上昇気流に乗って雲を渡り、森に雨が降る。これは水の物語なんだね」
ハッと息を呑み、ジェーンたちは思わず互いの喜色に満ちた顔を見合わせる。「そうです!」と答えたレイジの頬は、興奮でかすかに震えていた。
「悩むのは外観のデザインなんだけどね。最初は雲だと思ったんだ。でもこれが水の物語なら、泡ともたまごとも取れる。水は命の源だから」
「全部です! 全部を込めてデザインしました!」
クリスは顔を赤らめながら一歩踏み込んだ。その威勢のよさに目をまるめたロンだったが、やわらかく目尻を垂らして笑った。
「さて、ジャスパー部長、ブレイド部長。心は決まったかい?」
屋外に出た一行を前に、ロンはふたりの判定員へと視線を送る。ジャスパーは即座に「はい」と返したが、ブレイドはあごに手をかけ黙考していた。
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