129 新遊具対決④

「この薄闇、なにかがはじまる予感に自然と声を潜めちまうだろ。その時点で俺らはもう、物語に引き込まれてるんだよ」

「ジャスパー。あなたはそういうのが好きだから――」


 反論しようとしたアナベラを、ロンはやんわりと笑みで制する。


「まあ、とにかく見てみよう。レイジくんたちの想像した世界をね」


 ロンの視線にレイジはうなずいて応え、一行を奥へ導く。

 ゆるやかな下り坂が現れた。両脇を水が流れ、せせらぎが向かう先へ歩みを進める。そこに広がっていたのは、鏡張りの壁に囲まれた水が揺蕩たゆたう部屋だ。


「温水にしてあります。手前の水槽で足を消毒してから入ってください」


 アナベラが口を開く前にレイジは説明を入れる。ロンがすんなりと受け入れて消毒プールに足を浸けると、ジャスパーもブレイドもならった。

 部屋の温水に踏み込んだ瞬間、誰もが感嘆の声をもらす。足によって生み出された泡が青や紫に光り、水面に浮き上がりながら花と咲く。

 他にも葉っぱや小魚、クラゲが歩を進める度に次々と泡から生まれた。


「この水には透明の光り玉がたくさん入っています。それが振動によって発光し、光の花や魚になってしばらく漂うようになっているんです。花は季節によって変えられます。今は雪割草ゆきわりそうの花と葉っぱです」

「ふん。〈ミルキーウェイ〉と同じじゃないか」


 レイジの話に口を挟まずにいられないアナベラの声は、ジャブジャブと水を割っていくジャスパーに掻き消された。演劇部部長は自分が通ったあとにできた光の道を見てはしゃぐ。


「これはちびっ子どもに大ウケ間違いなしだな! カメラの持ち込みもありにしたらどうだ? これだけ映える画、若者が飛びつかないわけがない」

「だが水没させて壊す危険もあるだろ。水は足を取られる。両手はあいていたほうがいい。子どもはこの水深を難なく進めるのか?」


 ブレイドはあごに手をあて、冷静に問題点と疑問を口にする。「ブレイドの旦那は慎重だなあ」とジャスパーに言われ、凛々しい眉を寄せた。


「カメラの持ち込みはぜひ検討したいです。水深に関しては問題ないと考えていますが、できればプレオープンなどで実際の声を聞けるとありがたいです」

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