124 こちら企画書です③

 新遊具創造予定地を囲む衝立を潜ったジェーンとクリスは、地面に四肢を投げ出して倒れたレイジにそっと歩み寄った。


「俺は踊らされてただけかよ」

「違います! ロン園長は――」

「わあってるよ」


 ジェーンの言葉を遮って、レイジは寝返りを打つ。ついたひじを枕に頭を支えた。


「園長がんな性悪なことするか。腐ってんのはあのクソババアだよ。こっちになんの相談もなしに進めやがって。頭抱える俺を腹の内で笑ってやがったんだ」

「どうするんですか、レイジさん」


 クリスが気遣わしげに尋ねる。


「どうもこうもねえ。辞めだ、こんなパワハラ職場。いい機会だろ。ダラダラ居座る価値もねえ仕事だって、よおくわかった」


 背中を向けたまま、レイジはぞんざいに手を振った。

 クリスの目がせつな、痛みを堪えるように細められ、下がる。こんな時でも手放さなかったスケッチブックが、強い力で折り曲がっていた。

 ここは夢と創造の庭。子どもの頃から何度も通っていたクリスの、憧れの場所。そして神話では、平和を願い敵同士手を取り合った人々の、楽園の地。

 それが身勝手な悪意に汚されていいはずがない。


「このままでは終わらせません」


 企画書のファイルを抱き締め静かに言い放ったジェーンに、レイジとクリスは驚きの目で振り返った。




「では園長。創造をはじめてもよろしいですこと?」


 四月の頭。

 ロンとともに新遊具創造予定地にやって来たアナベラは、逸る気持ちを抑えられないといったふうに手をひらめかせる。

 茶色い目は自分の創った遊具に喜ぶ子どもたちと、称賛の眼差しを向ける従業員たちの顔を思い浮かべ、うっとりしている。


「うん? レイジくんはどうしたんだい。きみひとりで創るのかな、アナベラ部長」

「ええ。彼はもうこの企画を投げ出しましたわ。気分屋で困ります。園長、いよいよ彼の進退を決めなければなりませんね」

「確かに俺は気分屋ですけどね」


 アナベラのあとをつけ、頃合いを見計らっていたレイジが堂々と割り込んでいく。先輩の背中にジェーンとクリスもつづいた。


「今は最高に燃えてるんですよ。この企画に」

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