123 こちら企画書です②
アナベラの苛立った指摘がジェーンの心臓にも突き刺さる。確かに提出の遅れは気がかりだった。途中でアナベラに見せようかと話も出た。
しかしレイジは今回、ガーデンに屋内施設を創るという大胆な案を提示した。中途半端な内容ではアナベラは納得しない。気に食わず、別の案に変更しろと命令されるのを恐れた。
「遅れたことは申し訳ありません。大事な企画なのでギリギリまで試行錯誤していました」
感情を押し殺してレイジは冷静に返す。
「ガーデンに新しい風を吹かせる自信作です。ひと目見てもらえれば――」
そう言いながらレイジはゴミ箱に落とされたファイルに手を伸ばした。次の瞬間、アナベラはゴミ箱を蹴りつけた。
倒れて床を打つ騒々しい音に、デスクワークしていたノーマンさえ目を見開き固まる。
ジェーンはとっさに席から立ち上がっていた。
「遅いと言っただろ。見ても無駄だ。新遊具の企画書は、私の案を園長に出してもう承諾を得ている」
「え……」
足元を冷たいものが這い、ジェーンは突然氷の上に立たされたように覚束なくなった。視界の端でクリスも呆然とアナベラを見つめている。
「元々お前にはそれほど期待してなかったんだよ、レイジ。いつもやる気のないお前が持ってくる案なんて高が知れてる。だからいざという時は私に任されていた。ロン園長もそのつもりだったのさ」
違う。ロン園長はアナベラが手伝うと話していた。すべてを任せたわけではない。だって園長はレイジに意識を変えてもらいたいと願っていた。見放さずに、ギリギリまで信頼を置いていた。
「レイジさん……!?」
しかしジェーンが口を開く前に、レイジはきびすを返した。ショートローブのフードを目深に引き下ろし、ポケットに両手を突っ込んで、誰とも目を合わせず事務所から出ていく。
ジェーンはすぐにあとを追いかけようとしてハッと気づき、床から企画書のファイルを拾い上げた。再び扉に向かった時クリスも駆け寄ってきて、ふたりでレイジを追った。
クリスの目を見て、思い浮かべている場所は同じだと感じた。
「くそ!」
丸太の小山も運び出されて、なにもなくなった空虚な広場にレイジの叫び声が響く。
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