121 モブだって楽じゃない③
彼女の鼻先で指を振ってにんまり笑う。するとジェーンは鼻を隠して困ったように眉を下げたが、小さくうなずいた。
本当にダグラスが好きなんだなと思う。彼女の身に降りかかった記憶障害と、出会ってまだひと月という期間の短さから、勘違いかファン心かと思っていた。
だが人が恋に落ちるのに、きっかけや時間はささいなことに過ぎないのかもしれない。
「あの、前から気になってたんですけど。ルークたちとディノはどういった経緯でルームシェアすることになったんですか?」
同大出身の四人に対して、ディノは浮いている。当然抱かれる疑問だった。
「元々はダグ先輩とカレン先輩とプルメリア、俺の四人でルームシェアしようって盛り上がってたんスよ。食堂で。そしたらロン園長が来て、ディノも混ぜて欲しいって言ってきたんス」
「ロン園長はよく食堂に来られるんですか」
「そう。あの人、昼休みが唯一社員と触れ合える時間だからって、毎日食堂で食べてるっスよ」
ルームシェアの話をしていた時も気さくに相席してきたな、とルークは当時を振り返る。
「園長が言うには、ディノは不器用で友だち作れないから、仲よくして欲しいってことだったっスね。この家も園長が探してくれたんスよ」
「ふふっ。ロン園長はとても息子思いなんですね」
「まったく。あんなできた人が親なのに、どうして無愛想に育つのか。協調性がないわけじゃないんスけどねえ。ひとこと足りないっていうか、マイペース貫くっていうか。お陰で未だに掴みきれないお人っスよ」
くすくすと笑うジェーンを見て、彼女の前では腹を抱えるほど笑ってみせたディノの姿が思い浮かんだ。
あんな彼ははじめて見た。ディノの人との関わり方は基本、待ちの姿勢で必要最低限のことしか喋らない。壁は作らないが、ひとりの時間も欲しい。そういう質だと思って、ルームメイトは彼との距離感を探ってきた。
なのにディノは、ジェーンには自分から関わろうとする。彼女にはゆるめた表情でいろんな顔を見せる。
「……あれで案外マジなんか?」
「なにがマジですか?」
「いやこっちの話っスよ!」
だとしたら野暮は俺のほうだよな。
いつの間にか深入りしていた気がして、ルークは思い直した。
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