120 モブだって楽じゃない②

「俺は主人公の友人。モブその一っスよ。そして、誰の味方をするつもりもなければ、邪魔もしないっスよ。だからあんたがジェーンちゃんに本気だって言うんなら、引き下がるっスけど?」


 ディノはルークを見据えたまま押し黙った。その表情は薄闇に覆われて読めないが、ゆるやかに張り詰めた空気が漂う。

 ふいに、ディノは視線を外して窓のほうへ寝返った。


「好きに想像しろよ」


 見せた背中はこれ以上話すつもりはないという意思表示だ。ルークはわざと聞こえるようにため息をついて、扉を閉める。


「三角関係もややこしいのに、四角とかほんと勘弁して欲しいっスよ……」


 煮えきらない思いで髪を掻き、ルークもまた自室に下がった。




 二ヶ月分の給料が出た今でも、ジェーンが弁当作りしていることはルークも知っていた。六分割とはいえ家賃、光熱費の支払いもある中、ダグラスへのお菓子作りで出費がかさんだせいだ。

 よせばいいのにと思いつつ、健気な姿を見ていると放っておけない。それに焦る彼女の気持ちもわかった。恋敵のプルメリアはなんせもう、ダグラスと両想いだ。


「ジェーンちゃん」


 弁当作りのため朝早く起きてきたジェーンを、階段下で呼び止める。不思議そうに振り返った彼女を手招いて、洗濯室に入った。

 ここならディノが起きてきても、邪魔されないだろう。


「ルーク、どうしたんですか? そろそろ家を出る時間では」

「ダグ先輩たちには先に行っててって言ってあるっス。ちょっと気になることがあって」


 ジェーンは視線で問いかけてくる。


「ディノのことっスよ。昨日またからかわれたんスよね? あいつとあんまりふたりきりにならないほうがいいっスよ。ダグ先輩に誤解されてもつまんないっしょ?」

「あ。それは困ります……」


 もじもじと胸元の服を握ってジェーンは目を泳がせる。

 うーん。昨日の褐色庭師はなにをしたのか。いや考えるまい。


「でも昨日のは、私がダグラスにしかお菓子を作らなかったのも悪かったんです。今度はみんなに作ります」

「なあに言ってんスか。ジェーンちゃんはダグ先輩をひいきしたいんでしょ?」

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