119 モブだって楽じゃない①




 * * *



 ダグラスの大声が聞こえてルークがリビングから顔を出した時、ディノがキッチンから現れた。彼はこちらに気づいたにも関わらず、無言で階段を上っていく。


「なに。なにがあったの?」

「ルーク、ちょっとそこどいて」


 後ろから押してくるプルメリアとカレンに、ルークは笑みを向けて軽い口調で口ずさんだ。


「もう解決したみたいっスよ。大したことないっス」


 不思議そうなプルメリアと、まだ納得してない顔のカレンに手を振って、「俺は先に休むんで」とさっさと退散する。

 もしカレンがキッチンに行ったとしても、ダグラスがうまくやるだろう。それよりも俺の役はこっちだ。

 ルークは二階に上がり、廊下の奥を目指す。自室の向かいにあるディノの部屋を、ノックせずに開けた。


「なんだよ」


 吹き抜けの玄関ホールから差し込む照明の光が、ベッドに寝転がるディノの姿をわずかに浮かび上がらせている。ルークは部屋には入らず、扉枠にもたれて腕を組んだ。

 相手は不機嫌最高潮だが、鍵をかけていなかっただけましだ。


「あんたまたジェーンちゃんにちょっかいかけたんスよね」

「それがなんだ」


 ディノは天井を見上げたまま言う。その態度にルークは床を踏み鳴らした。


「なんだじゃないっスよ。あんただってジェーンちゃんがダグ先輩に惚れてんのは知ってるだろ」

「だから? それで俺の行動に制限されるいわれはない」


 思っていたよりも頑なに出るディノに、ルークは眉をひそめる。ひとつの疑念が生まれた。


「あんたは、ジェーンちゃんが好きなんスか」

「答える義務はないだろ」

「あっそう。だったらジェーンちゃんをからかって遊ぶのはやめて欲しいんスよね。本気じゃないなら、彼女の邪魔はするな」


 かすかに光を照り返す目がルークに向いて、軽薄に細められる。


「なに。あんたこそジェーン狙いか?」


 嫌な質問だ。この手の話が心底めんどうくさくて、今までダグラスとプルメリアのことも見て見ぬふりをしてきた。

 誰が誰を好きだの、味方につくだのつかないだの、派閥だのは息苦しいだけだ。ひたすら気楽で、代わり映えのない日々を暮らしていたい。

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