109 ジェーンの反撃①

 先に行ったとは考えづらい。今渡った交差点を見ると、対岸から手を振っているカレンとルークがいた。


「ディノ、ふたりは向こうにいますよ!」


 自分がふらふらしてしまったから、近いほうへ渡るしかなかったのか。少し申し訳なく思いながら、ジェーンはディノの袖を引く。


「知ってる」


 だが、ディノはしれっとのたまった。しかも、信号待ちをするでもなく、掴んだままのジェーンを連れて歩き出す。


「ちょ、どこに行くんです!?」

「あんたには、はぐれるなよって言ったよな」


 手首に回った指が強く締めつけてきて、ディノは鋭い目でジェーンを射抜く。そこに揶揄やゆの色はない。

 彼はジェーンをからかうばかりじゃない。気遣って大事なことも言ってくれる。なのに、悔しいあまり軽んじていた自分に気づいた。


「罰としてあそこにつき合え」


 ディノがあごをしゃくった先には、歩道に面した小さな黄色い店があった。〈クレープ〉と旗が立っている。

 商品ケースを見ると、ほんのり黄色い生地に生クリームやフルーツ、アイスが包まれたスイーツが並んでいた。


「でもカレンとルークが……」

「パイナップルチョコふたつ」


 ルームメイトを気にしている間に、ディノは慣れた様子で注文し代金を払う。ジェーンは慌てて彼が持つ紙袋から封筒を取り出そうとした。

 しかし買い物袋が邪魔で手が届かない。おまけにディノは「重い」と言って逃げる。


「じゃあ紙袋を渡してください」


 受け取るつもりで手を伸ばしたのに、ディノはそこから買い物袋を引き抜いた。


「クレープ受け取ってくれ」

「え。代金は」

「いい。ひとつはスタンプでもらえる」


 なんのことか首をかしげていると、年配の女性店員が「いつもありがとね」と言って、代金といっしょにカードを回収した。

 そして新しく出したそれにスタンプをひとつつける。張り紙を見ると、スタンプ十個でクレープひとつと交換できますと書いてあった。


「ディノはここの常連ですか」


 ジェーンはそこでハタと思い至る。ディノははじめてのお弁当でも、甘いジャムパンを入れていた。


「ディノの好物は甘いものですね」

「急になんだよ」

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