108 買い物の本命は④
「そう、ね。ダグのこと好きなのは確かなんじゃないかしら。人としても、男性としても。でもなにか悩んでる。だから今すぐ告白してつき合うって感じではないわ」
「悩んでる? なにをっスか?」
カレンは静かに首を横に振った。
ダグラスとプルメリアは互いに気があるが、告白する段階までには至っていない。それを知ったジェーンの胸には、安堵よりも息の詰まるような苦しさが雪崩れ込んだ。
両片想いなら私に出る幕はない?
ダグラスはもう手を伸ばしてはいけない人?
学友だったカレンとルークだって、ダグラスとプルメリアを応援したいに違いない。
「……私は、ジェーンを応援するわ」
「えっ」
「いいんじゃない。ダグとプルメリアはまだつき合ってないんだし」
カレンの思わぬ言葉が聞こえた時、信号が青に変わった。一斉に動き出す人々に合わせ、カレンは歩き出してしまう。
反応が遅れたジェーンも、押されるようにしてあとを追う。あっと思った時にはカレンとの間にどんどん人が入ってきて、彼女の姿が隠れそうになった。
慌てて駆けるも、交差点を縦横無尽に渡る人々の波に流される。荷物が重くて思うように進めない。
どっちに行けばいいんだっけ?
人波越しに信号機が明滅をはじめる。
「こっち」
その時、力強く手を引かれた。
「ディノ!」
黒髪を揺らし、淡々と歩く見慣れた長身にジェーンは安堵の息をつく。ディノはまるで人波の流れが読めるかのように淀みなく、ほとんどまっすぐに交差点を渡っていく。
「ディノ?」
けれど、彼の歩調は駆け足でなければついていけないほど速かった。呼びかけても振り返ってくれず、どこかピリリとした空気をまとっている。
怒ってる?
――気に入らないな。あんたが俺以外の男に興味を持つのは。
にわかに、ソファでからかわれた言葉がよみがえった。あんなウソ、真に受けるほうがどうかしている。ジェーンはすぐに頭を振って思考を散らす。
ルークの言う通り、ディノは騙されやすい私をおもしろがってるだけだ。
「あれ。カレンとルークは……」
赤信号になる寸前でなんとか渡りきったジェーンは、そこで待っているはずのふたりがいないことに気づく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます