107 買い物の本命は③

 だが浮かれた心は、ルークの正確無比な狙撃にずばりと射抜かれた。図書館や銀行よりお菓子の材料が本命だったなんて、バレてはいけない。

 全力の笑みで誤魔化す。


「そそそそうなんですよ! 自分用に? なんか急に作りたくなりまして……!」


 ところが、ルークの口角はみるみるにんまりと持ち上がっていった。


「なるほどねえ。ダグ先輩にあげるためのクッ――」

「わああああ!? ダメッ、ダメですルーク! それは内緒です!」

「え、なに、ダグにクッキー? いつの間にそんな仲になってたの」


 慌ててルークの口を押さえた努力もむなしく、下段からカレンがひょこりと顔を出して食いついた。しっかり聞かれている。

 まさかと思い後方のディノを見上げると、若葉の目がまっすぐジェーンに注がれていた。


「ねえ、それってつまりダグが好きってこと?」


 百貨店を出て、スクランブル交差点の赤信号に捕まったジェーンは、カレンからすかざす質問にあった。

 好きかと聞かれただけで熱くなる顔ではウソもつけない。素直にうなずく。


「そうなのね。ね、どこを好きになったのか聞いてもいい?」


 ひかえめな問いかけだったが、カレンの声は興奮を隠しきれていない。

 まさかイチャイチャしてる記憶を夢で見たからですとは言えず、ジェーンは目をさ迷わせる。

 意識はジェーンのために歌とダンスを披露してくれたあの日にさかのぼる。頬をなでた手の感触を思い出すだけで、トクリと胸が鳴る。


「ダグラスがいると安心するんです。それに私のこと気にかけてくれて、やさしくて……。あと、王様役がかっこいいです……!」

「あー。罪な男っスねえ、ダグ先輩」


 心なしか引き気味のルークに、ジェーンは自分の高揚っぷりを自覚して口を押さえる。だが、人に話してますます加速するダグラスへの想いは止められない。

 たとえ彼が、


「でもダグってプルメリアのこと……」


カレンの言う通り他の女性ひとを見ていたとしても。


「それなんスけど、プルメリアはどう思ってるんスか?」


 ルークの質問にジェーンは心臓をわし掴みにされる思いがしたが、好機でもあった。自分の足を見つめながら耳をそば立て、固唾を飲む。

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