106 買い物の本命は②

「では、うまくなったらみんなの服を創ります!」

「ほんと!? プルメリアもダグも絶対喜ぶわ!」

「それなら練習台でもいいっスよ! ちょっとくらい変になっても気にしないスから」


 ルークとカレンは盛り上がり、服の見本を探しに本屋にも寄ることになった。喜ぶルームメイトの顔を見つめるジェーンの胸に、ぽかぽかとぬくもりが灯る。

 目覚めてから人に頼ることしかできなかった。整備士としてもなにもさせてもらえず、疑念と不満がどんどん積もっていく。時々、レイジとクリスの前でも、自分は役に立てているのか? 暗い思考に呑まれた。

 だけど今はじめて、魔法の素質があってよかったと思える。創造魔法には、人を笑顔にする力があると気づいた。


「私、もっともっと魔法を磨きます。なんでも創れるようになって、みんなに喜んでもらいたいです!」


 そうだ。記憶を失ってゼロになっても、私にはまだ魔法がある。

 ひとつの確信に胸を震わせるジェーンの肩が、やさしく叩かれる。見るとルークとカレンの笑顔があった。


「なあに言ってんスか。俺らはもうジェーンちゃんが来てかなり喜んでるっスよ。シェアハウスがもっとにぎやかになったし」

「どんな料理も喜んでくれるから作りがいあるし」


 ルークにつづいたカレンの目が横へと移る。そこにはディノがいたが、彼は怪訝な顔で首をかしげた。


「ディノもうれしいって!」


 どう見てもそんな仕草ではない。だがカレンは笑顔で強引に持っていく。記憶はなくとも、この空気を読み間違えるジェーンではなかった。

 ディノは置いて、カレンとルークの厚い友情に感謝した。



 両手に買い物袋を下げて、一階へ戻るエスカレーターに乗る。シャンプーや歯みがき粉といった日用品から、食品まで買って袋はパンパンだ。

 それに比例してジェーンの心もふくれ、満たされていた。もうカレンやプルメリアに寄りかからなくていい。一歩一歩、自立している。

 なにより自分の報酬で、自分の力で、あの人を喜ばせることができる。


「ジェーンちゃん、薄力粉とか型抜きとか買ってたっスけど、クッキーでも作るんスか?」

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