105 買い物の本命は①

「はいウソー! ジェーンちゃん完全に固まってるっスから! あんたジェーンちゃんが記憶喪失なのをいいことに、でたらめ知識教えて楽しんでるだろ!?」

「ディノ。余計に混乱させるのはやめて」


 ルークの裏拳がディノの胸元にビシリッと決まる。

 カレンに肩を抱き寄せられて、ジェーンはまた騙されたことに気づいた。図書館では真面目に本を探してくれたせいで、油断してしまった。

 したり顔のディノを見ていると、その親切もウソのための布石に思えてくる。ジェーンは背伸びしてディノに噛みついた。


「私はもう騙されません! たくさん本読んで、ディノのウソなんて見破ってやるんですから!」


 奪われた紙袋に掴みかかる。しかしディノは難なく身をひねって避けた。今度はすばやく詰め寄ってやるが、腕を高く持ち上げられて手が届かない。

 ジェーンは負けじとぴょんぴょん跳ねる。だが指先がかすめただけで終わった。


「遊ばれてるっスね」

「楽しいのかしら、ディノ。顔は全然笑ってないけど」


 結局、紙袋は取り返せないまま、エレベーターに向かった。カレンは「持ってくれるってことじゃない?」と言う。それならそうと言うどころか、ウソを混ぜられてとても信じられない。

 到着したエレベーターに乗り込む時も、ジェーンはディノをジト目で監視していた。


「そういえばジェーンちゃん、服はいいんスか? 五階に安くて人気の店があるんスけど」


 ルークがエレベーター内の案内板を見て言う。ジェーンは図書館の雑誌コーナーで見つけた『マジックメイト』の本を思い浮かべた。


「実はさっきいい本を見つけまして。服やかばんは自分で創ることにしたんです。魔法の練習も兼ねて」

「えっ、自分で!?」


 大きく反応したのはカレンだ。驚きにまるまった目がいつになく幼げに映る。


「いいなあ! 魔法士の羨ましいところよ。流行りの服もオリジナルの服も着放題じゃない!」

「まだ、うまくできるかわかりませんけれども……」

「オリジナル創れるのいいっスね! 俺もスニーカーの色とか気分で変えたくなるんスよ」


 ルークまでもが弾んだ声を上げる。そこでジェーンは閃いた。これならすぐにでもみんなにお礼ができる。

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